inkblot

思えば、夢に出てくる知っている人というのは、ほとんどある業種の人々だ。

 の夢では全体的に常に薄暗い情景が広がっている。茶色じみた薄曇りの下で、彼は誰かの家に向かった。洋風の、大きな家である。長い髪を背中に垂らした中年くらいの女性が立っている。彼を待っていたのだ。彼女の案内で、正面の広い白階段を上って中に入る。灰色の壁の、陳列棚のある事務室のような部屋に通された。新聞の記事か何かで見た、とある物の引き取りに来たのである。あるいはこれは家でなかったのかもしれない。考えてみれば、女性もどこか事務員か何かのようでもある。そんなことを考えているうちに、陳列されたものの紹介は終わり、最後に物を手渡された。それは小さく、鼠色の薄い紙の箱に入っていた。何かが動く気配がする。中から少し、柔らかな毛がはみ出していた。



 ×××××は、自分の薄暗いアパートの一室にいる。低く唸るような機械の振動音。シンクに蛇口から水が流れ込んでいる。彼は追い詰められていた。彼を追い詰めるものが何かは忘れてしまった。彼は何かを気にしている。神経質になっている。薄っぺらい紙の小箱は、テーブルの端でひしゃげていた。「調子はいいんだ。すごく」そういう彼の顔は、伸びた黒い縮れ髪に縁取られて、凄絶な形相だった。セメント色の冷蔵庫。しゃがみこんで、中身を出している彼の姿が見えた。




 「これを見てください」ひとつの蒼ざめた臓器が転がっている。はち切れんばかりに膨らんだそれは、もうすでに半ばほどまで切開されて内容物が垣間見えている。胃だった。白衣を着た若い女性が説明している。「彼の摂食量は驚異的です」若い研究者は声をひそめた。「モニタリング開始時の、50倍もの測定値をはじき出しています。これは――……」女の声が遠くなる。ああ、彼は研究対象だったんだな。私は、もう一度蒼ざめた胃袋に目をやった。裂け目から、みっしりと詰まったものがのぞいている。ゴロっとした肉塊と栗色の髪の束、固く丸みを帯びた鶏の卵のようなもの。白い卵の表面が、しらじらとした光を放っていた。



  1. 2010/06/20(日) 22:49:55|
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