inkblot

星が目を射て耳を射る


ある日、森で仕留めた勇壮な雄鹿(おじし)が星を吐き出した。
生きていた時の瞳の輝きをそっくりそのまま移したような。
眩い毛並みの白を、そっくりそのまま映したような。
舌から転がり出たそれを握りしめると、じんじんと熱い。

ニコデモは雄鹿の舌(サヨ)、肝(キモ)、心臓(マル)、膵臓(タチ)を取り。
雄鹿の舌、肝、心臓、膵臓を取り、十二の串を捧げて祈った。
神は贄を嘉納し給い。
清い風を北へと吹かせた。

ニコデモは残りを持ち帰り。
肉は干し、毛皮は鞣し、角と骨は削って杖にした。
そしてそれらを持ち。
星を袋でぶら下げて、北へと向かって旅立った。
彼はもう、置いて行かれないものを何も持っていなかったから。

森を抜け。
静寂(しじま)に白い灰の降る。
死の山を越えた。
灰は雪のように、しかし雪よりも柔らかく彼の足跡を消す。
この灰のように、死者も眠りにつくのだろう。

尾根を歩き、澤を伝った。
夜は火を熾して毛皮を纏い、休んだ。

数多の山々を超え。
或る山の頂に至ったのは夜に入る頃だった。
小さな焚き火を熾し。
最後の鹿肉と、澤の魚を火に掛ける。
湯が沸いて、草で作った茶になった。
少しずつそれをかじり出す。

慎ましい食事が半ば終わった時。
強い夜風が火を掻き消した。
胸元の星が強く輝き出す。

鹿の星は、強く強く輝いて。
袋を焼き切り、飛び去った。
そして空から星が降り。
そして空から星が降り。
星の雨が彼の心を畏れで満たし。
星が瞳(め)を射て、耳を射る。
星々は歌いながら、雨と降り。
ニコデモは手で目を覆い、絶叫した。
その声もまた歌になる。

彼の瞳には星が宿り。
彼の眼は盲いた。
彼の舌には星が焼き付き。
張り裂けるような声で歌いながら彷徨った。

斯くして彼はカウボーイとなった。



  1. 2016/11/29(火) 15:57:56|
  2. 短編
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