inkblot

20140524


 思えば今月はあんまりフジファブリックのことを考えなかった。まったく考えなかった訳ではないが、ぶっちゃけロマンチックおじさんが手強すぎるのでロマンチックおじさんのことばっか考えていたせいでなんだか影が薄い。頭とノートの中には先生のことばがブルーブラックのインクとなってあふれるほど満ちている。これをずっと持っていくことは間違いなく大事なことだ。でも他にも大事なものはたくさんある。でも何かに手を伸ばすと何かを取りこぼす。大丈夫なのか。何かまた取りこぼしてはいないか? 大切な何かを。分からない。正確には分かりたくない。自分は後ろを見ながら前に進んでいけると思っていたが、いやはや新しく学ばないといけないことが多すぎる。ひと段落したら嫌でも戻る場所だろう。でもそれでは遅かったらどうする? だめだ、こればっかりは分からない。

 史料を探しに出歩いた帰りに、ふらっと近所の本屋に寄った。小さなチェーン店で、しばらく行かないうちに本の顔ぶれに随分品がなくなっていた。表紙にはどぎつい色とフォントが踊り、露骨に性的な絵が描かれている。他の本屋にはひっそりと置かれているものが、なぜかここだけ煮詰まっているようである。本は売れない。昔から品ぞろえはよくなかったが、ここまで売れていないんだな。なんだかいたたまれなくなって児童書コーナーに逃げ込んだ。やっぱり貧しい本棚だが、しかしまだよく知っている空気がある。馴れ親しんだお揃いの背表紙をみていると、安房直子が何冊かあった。

 一冊、二冊と目次を確認して、二冊目ですぐにお金を払って店を出た。久しぶりに読んだがやはりこれは忘れ難い。小さい頃、何の気なしに読んだささやかな話が、だが確かに心の深いところに根を下ろしてしまっている。大切な話はいくつかある。それらはどれも、大切ななにかを忘れまいとしつつ忘れていく、だが、最後にその記憶は再びよみがえり、そしてもう忘れられることはない。そういう話である。

 家に帰ってもう一度読み返し、やはり忘れようと思っても忘れられないものはあると思った。志村のこともそうかもしれない。そうだったらいいとは思うが、しかしそういう美しい物語に癒されて呆けるのは嫌だな。小生は「思い出にしない」なんていう狂気を孕んだ強さはやっぱり持ち合わせていない。思い出にしたくなくても勝手に思い出になっていくし、色あせていく。だから思い出せるときに思い出していくし、無理矢理掘り起こしていく。それくらいしかできない。


  1. 2014/05/24(土) 22:27:15|
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