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『RAY』

 聴いた。3月11日に。3月11日にこのバンドの新譜が手に入るということは、実は大きな意味があるんじゃないか。BOCと3月11日のあの出来事との繋がりは、ひょっとしたらアジカンとそれの繋がりよりも強いものかもしれない。なぜならBOCは東北の血を引いているから。藤原は秋田、升は宮城の出身である。育ったのは千葉だが、彼らの言葉や感性に東北はある。千年の痛みの記憶と、それをより強く刻み直すようなあの地震、まだ何も痛みの歴史は終わっていないという通告のようなあの地震はバンプオブチキンの歴史に臍の緒のように繋がっているのではないか。彼らは生まれながらに痛みの記憶を抱えている。この唄を聴くなら、その始原に目を凝らすべきじゃないか。千年間覆い隠され、癒えることなく血を流し続けてきた傷口を暴かなくてはならない。「3月11日」は出来たてのクリシェではない。まだ何も終わっていない。

 とか言いつつ、リリースが3月にずれ込んだのはツアーと連動させるためという大人の事情なんだけどね。ただBOCと東北というのはもっと考えられるべき視点だとは思う。

 『RAY』を聴いた。「WILL」はライブのオープニングムービーのBGMとして使われているあれだ。それを抜くと、始まりは「虹を待つ人」で終わりは「グッドラック」。どちらも根源的なグル―ヴを持つ曲である。特に「グッドラック」で終わるというのがやっぱり良い。今ここにいる、いつか自分のことを忘れてしまう人に向けた未来のはなむけ。自分が忘れられた後で初めて開く魔法、最後に渡せるたったひとつの魔法だ。「変わったって言って鼻で笑うなよ、忘れないでくれよ」と恥も外聞もかなぐり捨てて叫ぶ一方でその魔法を何年もかけて仕込んできたのを知っていて、そしてとうとうここに嵌め込まれているのをみて、なるほどここしかないなと思う。

 PCで「ray」のPVを視聴した時は音にかなり違和感があったんだが、まあまあ音のいいコンポで聴くとそうでもなかった。だが総じてカントリーやブルーグラスといった泥臭いルーツがはっきりしたメロなのに、サウンドワークにかなりエレクトロや電子的なサウンドへの志向がみられる点でなんかヘンテコである。顕著なのはやはり「ray」と「虹を待つ人」で、後者はそこまでグル―ヴが損なわれていないが、前者はやっぱりちょっとアレンジにも疑問が残る。特にボーカルの処理だ。おそらく藤原の声は電子音と非常に馴染みが悪い。この声をケロらせてしまうと、この声が持っている微細な震えが壊されて失われてしまう。だがその繊細で豊かな震えこそがあの魂を揺さぶるグル―ヴを生み出す根源なのである。だから切り落としてはだめだ。

 エンジニアの前田氏がツイッターで丁寧に説明してくれていたが、本当にCDで聴くと音がいい。マスターはアナログだというが、CDではなくヴァイナルだったらもっとすごいんだろう。バンプファンはバカだからアナログで出してくれたらプレイヤーくらいホイホイ買いますよ。笑 だから出してほしい。音像に関しては、やはりボーカルの録り方がすごい。苦笑 あの声の持つ不思議な力が、大してすごくもないコンポでこのレベルまで再現できるというのはどういう技術なんだ。苦笑 マジで飛び出すように聴こえる。リズム隊の低音もしっかり出ていて素晴らしかった。だがギターの音がなんか軽い。グロッケンやシンセといった他のウワモノもいっぱい乗っかっていて目立っているのに、ギターだけどこか奥に引っ込んだような音像である。もう死ぬほど好きなギターなのでもっとしっかり聴きたいんだが。ぶっといレスポールの音が! そこがなんか物足りないな。

 しかしドラムも打ち込みっぽい粘度の高いドラムが結構多用されていて、やっぱピコピコさせたいんだなと云う感じだが、なんでピコピコさせたいんだろうな。流行ってるからか? そもそもBOCの曲でピコピコさせる必要ってあるか? むしろもっと削ぎ落としていった方があっているような気がする。まあそこはのんびり見守っていこう。特に焦るようなこともないしな。

 「ray」の歌詞は今までの集大成みたいなところがあるな。まあだからと言って「ray」が『RAY』で特別な曲という気も特にしないが。個人的には「ラストワン」がいい。ちょっとラッドっぽいか。最近の曲は知らないが。やっぱ声素晴らしいな。藤原の声はコーラスが重なると、本当に気持ちのいいグルーヴが生まれる。重ねなくてもグルーヴはあるが、倍加された時は本当に気持ちがいい。そのうちどんな言葉も楽器も必要としなくなるんじゃないか。Shirin Neshatの「Turbulent」に出ているSussan Deyhimみたいな感じに。めちゃめちゃ楽しみである。

 「サザンクロス」は「リリィ」の延長線上にある世界観だと思った。武道館初日に「リリィ」をやったのはやっぱり大きな意味があったのかもしれない。そもそもBOCの歌詞に出てくる二人称はだいぶ謎で、アルターエゴと他者がどこか溶け合っている。「(please)forgive」はマイケル・ジャクソンに対する一連のレクイエムのひとつで、このアルバム全体に憧れ続けてきたものへの言葉が込められている。

 というか「(please)forgive」は優しいな。彼は力尽きた彼のスターを、高く空を行く飛行船に乗せて最後の旅へと送り出したんだな。ハーラン・エリスンの「鈍いナイフで」という短編を思い出したが、自分がしてきたことを全部分かった上で「(please)forgive」と言う。最後に星にかけられる言葉はやっぱりそれなのかもしれないな。小生もいつかあなたに言う日が来るだろう。星に憧れたあなたの物語も全部もらって抱えて小生も歩いて行く。

 忘れたくない/忘れられたくないという叫びが突き抜けていく。ずっと胸にあった痛みを忘れかけているという恐怖から忘れても忘れない方法を編み出してこうして提示してみせる。でも「ray」はなんか怖いような気がするな。信じているが盲信している訳じゃない。もう少しゆっくり考えてみるよ。

 曲の製作時期には大きな開きがあって、それも大事だな。まだ第一印象しか言えないが、言いたいことがどんどん増えていく。一曲一曲好きなところも気に食わないところもあるが、結局前者が軽く上まわっていく。これ全部生で聴けんのか。そう思ったらそりゃあバカみたいにテンションも上がる。CDも音は確かにいいけどライブには敵わないからな。早く生で聴きたい。



  1. 2014/03/12(水) 15:36:06|
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  1. 2014/03/12(水) 23:39:10 |
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Re: レヴュー待ってました。

コメントありがとうございます。

待ってくれた人がいるとは思ってなかったので嬉しかったっす。なんかBOCのこと書いても他のバンドと比べて見られてる感じがあんまりしないんすよね。ありがとうございます。

解散とかは個人的に心配になったことがないんで、そういう可能性も普通に考えたらあるんだよなと思いました。小生の考え方がどっかおかしいのかもしれないから、解散にどうリアリティを感じるのかっていうのはちょっときいてみたいっす。分からないが、小生はかなり楽天的に考えているのかもしれない。

『R.I.P./Merry Christmas』が分岐点というのはおっしゃる通りだと思うっす。でも2009年というのはキング・オブ・ポップが死んだ年なんすよね。それがやっぱり重要なんじゃないかという気がする。まだ全然ぼんやりとしてますが。。。

  1. 2014/03/15(土) 16:43:38 |
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  3. 北田斎 #-
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