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2012.2.14 対バンの嵐 at 新宿LOFT その2



 もう一度幕が下りる。安っぽい「対バンの嵐」という文字が映し出されて確かまたアトミック・スウィングが流れたんじゃなかったんだっけな。10分だか15分くらいして幕が上がる。上がりきる前からギターの爆音が耳をつんざく。ヒックスヴィルの小暮晋也、中森泰弘。ヒップゲロー、コモンビルの玉川裕高。鍵盤の高野勲、パーカッションの朝倉真司。そしてドラムは鈴木、ベースは隅倉。今日、誰よりもここに立つことを許された8人がそこにいる。初恋の嵐のライブが10年ぶりに始まった。

 一際音のデカい玉川のギターに全ての音が、ノイズすらも絡みついて大きな太い音のうねりになっていく。と、そこに上手からひとつの人影がひらりと躍って中央のマイクの前に立った。この曲、この男。思わず目を見開く。「UNTITLED」、現れたのはクボケンジだった。

 シマウマ柄のカーディガンだったのは即刻意識から遠ざけることにしたが、フジQで精いっぱいだったこの男が果たして落ち付いて歌えるのかは気になるところであった。だがクボはギターを持たない手ぶらの両手でマイクをしっかり握り、目を閉じて歌い始めた。その声を聴いてさらにはっとする。ふわっとして壊れてしまいそうなほど繊細なのである。楽器の音が異様にデカいせいもあるだろうが、メレンゲの曲で聴けるような張り詰めた強さは皆無だ。本来非常にか細い声なのだがそれがはっきりしていた。曲がクボの声より遥かに強靭だからだ。不安定で危うい声である。これも悪くはない。しかし今回のクボンゲに挙動不審な動きは全くなかった。強くなっている。こいつはフジQの時より遥かに腹をくくっている。このへたれ野郎がここまで頑張っているというのは少なからず衝撃だった。

 間髪入れずに次の曲が始まる。メロウなイントロですぐに何の曲かが分かる。「涙の旅路」、今回クボンゲが歌ったのは大昔にカバーした2曲だった。「刻まれることを夢見てた」 この曲はクボンゲの声がよく合っている。サビでは声が張り詰め、そしてぐっと抑えられる。心の底から涙の流れるような曲だった。クボは2曲をしっかりと歌い切り、照れの混じった笑顔で万歳と一礼をして上手に去っていく。

 続いて現れたのはセカイイチ岩崎である。パーマがかかった頭に山高帽を深く被り、白いシャツに黒いチョッキ姿でクボンゲと比べるとかなり小柄だ。マイクスタンドの前に立ち、両手を後ろで組んで目を閉じて歌い出した。一曲目は「Good-Bye」である。岩崎を生で観るのは初めてで音源もそこまで聴いたことはなかった。生で聴くと音響の関係か、甲高く少しかすれて少年のような妙に幼い声に聴こえる。小さい体に甲高い声で振り絞るようにして歌う。何だか子どもみたいだったがなかなかどうしてとてもよかった。岩崎なりに西山に対して敬意と誠意を表わしていると思った。この「Good-Bye」は原曲を聴いている時に未だに思い出す。

 二曲目は打って変わってアグレッシブになる。「君の名前を呼べば」だ。原曲はそれほど激しいイメージがなかったがなかなかどうして生は激しい。バンドの音圧も凄まじいが水を得た魚のような岩崎もなかなか凄かった。音が耳を散々に嬲って去って行った後もしばらく圧倒されていた。

 MCなしで二人のボーカリストが終わるとよくしゃべりそうな顔をした男が現れた。堂島孝平、歌う曲は「罪の意識」だ。彼が歌うのを聴いて驚いた。西山に似ている。多分この日の出演者の中で一番近い存在だったかもしれない。少なくともゲストボーカルの中で別格な存在であることはよく分かった。もったりした序盤からの劇的な転調に度肝を抜かれる。西山もこんな風に歌ったんだろうか。

 二曲目の「化粧に夢中な女の子」はさらに真に迫っていたように思う。こんな曲を歌いながらもひょうきんな顔は変わらない。西山も一見軽薄にすら見えるような男だったということは大分後で知った。彼はどんな顔をして歌ったんだろう。

 曲が終わると初めてMCが始まった。ゲストボーカルの中でも旧知の仲であり、喋りの上手い堂島のところに設けたのだろう。内容はほとんど忘れたが面白かった。堂島にいじられると隅倉がすぐにスネる。それを観て「こんなキャラだったのか!」と思った。いやあ、ナイス。

 そして隅倉が緊張した面持ちで「ゲストボーカルに丸投げするのはよくない。けじめをつけるという意味でも一曲自分たちだけでやろうと思うので聴いてほしい」というようなことを口にした。隅倉が歌う「星空のバラード」が始まる。もともとボーカルではないし緊張しまくっているので技術的には覚束ない。だが悪くなかったと思う。手放しで「よかったよかった」と言うのはどうかと思うがだが欠点を補って余りあるものがあの時あの場にあったのは間違いあるまい。

 その後、これまたスーツ姿の松本素生が登場する。生で松本を観るのはこれが初めてだったがすげえ漫画みたいだった。一曲目は「初恋に捧ぐ」。これはずるいよな。誰がやったってずるい。見事に持って行かれた。そして最後の曲はと緊張していると、始まった。「真夏の夜の事」である。正直、これは松本素生が歌うべき歌ではないと思った。ファンの人には悪いが。今日のボーカリストで歌えそうなのはクボンゲと堂島孝平だが、クボンゲはおそらく曲に負けるのでやっぱり堂島くらいだろうか。あとはいないが曽我部恵一とかか…… いや、本当はそうじゃない。やはりどいつもしっくりとなんか来ない。西山達郎の歌が聴きたかった。結局誰がステージの真ん中に立っていようと、目も耳も心も西山一人の存在をそこに探っていた。今日の主役はやはりあの男ただ一人だ。

 アンコールで堂島孝平が最後にもう一曲だけ歌った。「Nothin’」だ。やはり声の高さや震え方が似ている。圧巻だった。これ以上ないくらい、西山達郎を感じられた夜だった。片手で持てるだけのCDを残して消えた、曲以外にほとんど何も知らない男を。まだ当分は忘れないでいられそうだと思った。






SET LIST

クボケンジ(メレンゲ) 1. untitled
2. 涙の旅路

岩崎慧(セカイイチ) 3. good-bye
4. 君の名前を呼べば

堂島孝平 5. 罪の意識
6. 化粧に夢中な女の子

7. 星空のバラード

松本素生(GOING UNDER GROUND) 8. 初恋に捧ぐ
9. 真夏の夜の事

(ENCORE)
堂島孝平 10. Nothin’



  1. 2012/10/15(月) 00:53:19|
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