inkblot

屍者の帝国

 発表の準備に煮詰まってつい読んでしまった。これだけは絶対に丁寧に読もうと決めていた。だが絶望するほどあっという間に左手の中の頁数は減っていった。

 文体は伊藤計劃がベースにはなっているがその中に消しきれない円城塔が溶け込んでいる。まず主人公がジョン・H・ワトソンというところから相当楽しいが、プロローグが終わってもはちきれんばかりに詰め込まれた小ネタには最後まで一々ニヤニヤされられた。勿論全てを拾えているとは思わないが。ネタのチョイスは若干円城塔寄りなようにも感じたがどうだろうな。星の智慧派が出てきた時は大笑いした。『黒い仏』では気付くのに時間がかかり過ぎたが。今までひどい斜め読みしかしていなかったが一般教養として一度ちゃんと読むべきだな。あとバロウズが出てきた時に同姓同名なせいで一瞬訳が分からなかったのは少し悔しい。

 円城塔は『虐殺器官』を念頭に書いていたように思う。ワトソンはワトソンにしては繊細でクラヴィスを思わせるし、当初筋肉バカとして登場した愛すべきバーナビーは頁を繰るごとに少しずつ鋭い発言をし始めウィリアムズに近づいた。ハダリーは名前からして伊藤計劃が喜びそうだが、ルツィアと同じようにファム・ファタールである。カラマーゾフとザ・ワンはジョン・ポールに少し似てはいないか。

 内容については触れられるほどの能がないので触れない。だが最後の2頁を読み終わって頭痛がするまで泣いた。物言わぬ筆記者であった円城塔が最後に発した言葉に。彼が成し遂げた事の壮絶さに。彼のこの物語の作者に対する絶大な信頼に。そしてもうあの人の新作を読むことは二度とないということに。そばで偶然『Syrup16g』が流れているのも悲しかった。ボロ泣きする時というのは最早「悲しい」という現象が私から切り離されて存在している。あれは非常に不可解だ。

 死者に「ありがとう」と言える人は紳士的だ。小生は未だにどうやって死者を叩き起すかで頭の中をいっぱいにしている。みっともないよな。早く心から「ありがとう」と言えるようになりたい。

 しかしこの本が売れなかったら本当に終わりだな。。。『虐殺器官』、『ハーモニー』、『メタルギアソリッド』、『屍者の帝国』。これは日本だけに留まらずどこまでも広がって読まれていくだろう。

http://www.kawade.co.jp/empire/



  1. 2012/09/07(金) 14:05:07|
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