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2012.5.3 BUMP OF CHICKEN GOLD GLIDER TOUR at 石川県産業展示館4号館 その3

 チャマは話をようやくまとめ、「はい、じゃあ秀ちゃん!」と升に向かって声を上げた。間髪入れずに升がドラムをたたき始める。これは……! と思っているとレスポールがぶっとく振動して確信に変わる。「stage of the ground」だ。百万回聴いた唄の新しい一回目に感極まってしまった。点の照明が眼球の上を満たす水分にぐっと引き延ばされて無数の赤く細い光線となって視界のあちこちを突く。地べたの唄だ。素手のリズムだ。星に届く高さはない。だが地表いっぱいのデカさで笑えるくらい壮大だ。これを突き崩すことはできない。2人のコーラスという土台の上で、藤原の唄はとても自由だ。

 レスポールスペシャルをJ-45に持ち替えて、ストリングスの音が流れ出す。その上に4人組の生音が打ち下ろされる。「友達の唄」だ。今日の藤原の声は少し高めだったが、これは最初から最近の角の取れた無防備な声だった。メロディは彼の思うように少しずつしなやかに形を変えていく。だが途中で藤原の声ががらっといつもの声に変わった。多分あれは意図してやったことじゃないだろう。でもそれでやっと分かった。声が変わったんじゃない、歌い方が変わっているんだ。それに今まで気がつかなかった。そしてサビでは凛と声が張り詰めた。音源でぐっと張り詰める箇所はもう少し柔らかいメロに変えていたがそれでも素晴らしかった。

 そしてギターを変えずに「グッドラック」。猫みたいな癖のある声である。幕張の方が声のコンディションは万全という感じがしたが、個人的には万全じゃない方が好きだ。出だしから雄々しい唄い方だ。この曲はどうしてかやたら泣ける。なんでこんなに泣けるのかずっと分からなかったが、このもう少し後になって分かった。

 暗転してギターがレスポールスペシャルに取り替えられる。イントロの歪みの少ないアルペジオがピックで薄くはじかれる。「Smile」だ。言葉よりも「ああ ああ」という単純な間投詞をこれだけ人の心に突き立てて揺さぶるあの声が、あのメロディセンスが怖い。あの声は発せられた瞬間から独特の揺らぎを持っている。それは不安定で不規則な揺らぎではなく、折れることのないしなやかで強靭な揺らぎだ。それが高まり、長大なアウトロへ差しかかる。それとほぼ同時にスクリーンが真っ白に発光した。しばらくするとモノクロの花が映り、それがどんどん色づいていくCGになったがそんなのはまったくもって余計なものだった。増川のサンバーストの美しいレスポールスタンダードが芯から低く振動する。藤原は弦を完全にミュートし、拳で叩くように音を出した。4人はいつの間にか向かい合っていた。4人の狭いサークルである。藤原が上体をわずかに反らす。ほとんど動きのない男の見せた動きは抑制されてこそいるものの、その向こうにあるエモさ、躍動感が伝わって来る。増川の指が根本のフレットまでぐっと滑る。劇的に全ての音が終わった。暗黒の中、「ありがとう」という藤原の声が少し遅れて響いた。

 素材である鋼鉄らしさをむき出しにしたリフがかきむしられる。思わずはっとなった。幕張の1日目でこれをやっていたと知った時はかなり悔しかった。だから今日はどうしても聴きたいと思っていたんだ。藤原が唄い出す。「ハルジオン」だった。随分荒っぽいギターの音だったがそれは確かにずっと聴きたかったあの唄だった。これも細かくメロが変わっている。より童謡的な側面が強調されていたが、唄い方は大分手厳しかった。



  1. 2012/05/23(水) 10:17:19|
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