inkblot

ある話


 今まで部誌と名のつく冊子はいくつも読んできました。ただたまにふと思い出してどうしても読み返したくなる話があります。


 あれは高校の文化祭でした。うちの文化祭はくそつまらないことで有名なので、友達も少ない部員は必然的に部室にたまってぐだぐだして過ごす、いや気付くと常時部員の大半がたむろしているのだが、小生とて例外ではなく暇なので展示されている部誌のバックナンバーをひたすら読むのが文化祭の過ごし方だった。そしてまさにそうしている時にそれに出会った。

 それは風変わりな古道具屋の隅でピエロの人形がひとり物語る不思議な話でした。文章はまあ年を考えれば妥当な技術力だったと思うが、漂う空気がとてもよかった。具体的にどんなストーリーかはこうしてだらだら書いたとしても良さが通じる気が全くしないので省くが、とても引き込まれるものだった。初めて読んだ年はふうんと思ってそれきりだったが、次の年ふとまた思い出して読み返し、さらにバックナンバーを漁って同作者の話を探した。筆名はくまさんという果てしなくやる気のないもので、よくあることだがやはり他の年には飽きて使わなかったらしく、見つかりませんでした。

 だが、ある年の部誌に非常によく似た文体の短編を見つけ出したのです。それは双頭の竜の話だった。どんな話か、詳しく書く気は皆無ですがこれも不思議で面白かった。

 この話には特に筆名が付されていなかったので、頼りない糸はそこで途切れてしまった。バックナンバーに振られた年度をおぼろげに思い出すに、作者は自分より下手したら一回りは上の卒業生だし、当時を知っている顧問の先生に訊くという選択肢はそもそもなかった。なぜならその頃私は職員室の戸口でテレパシーを送って先生を呼んでいたからだ。たまに通りかかった友人が見かねて呼んでくれた。そういう効率の悪い召喚法でやるのは面倒臭いにもほどがある。

 その次の年は受験だったのでそれ以来すっかり忘れていました。


 だが今になって時々思い出す。くまさんとやらはもう小説なんかさっぱり書いていないかもしれない。自分が文芸部に所属していたことすらほとんど忘れて生きているかもしれない。だがこの人の話がもし他にあるのなら、読んでみたいなあと強烈に思う時があるのです。





  1. 2011/08/28(日) 23:55:19|
  2. 短編
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