inkblot

one year and 8 months have passed.


 ここ数年、何回も何回も繰り返し同じ話ばかり書いている。まだ書き足りないのかと思うが、書き足りないのだから仕方がない。友人でも家族でもない、口もきいたことのない人間のことがなんでこんなに頭を悩ますのか分からん。笑うよな。

 下の文は単なる自己満足で、はっきり言って面白くないので読まなくていいですよ。あまりのくだらなさに腹を立てても責任は取らないんで。苦笑 原稿用紙14枚というのは短いけれども、こういうところで読むのはなかなか読みづらくて面倒なものでもありますし。





桃色の雨、忘れ物の街


 ボクは気づけばずっとその街をフラフラしていた。街には気付いた時からずっと、涙みたいに暖かい雨が降っているんだけど、体に当たるだけで別に濡れたりはしないんだ。なんだか変だよな……

 よく知っているようなでも知らない街。ここはいったいどこなんだろう……大して広くないようでいて、そのじつ街の縁は霞んでいてよく見えない。中央には白くて滑らかで巨大な石が螺旋状にいくつも浮いて不思議な塔を作っている。てっぺんは靄に呑まれていて、塔がどこまで続いているのかは分からなかった。石畳の道の端には瓦礫の山があったり、ガラクタの山があったりする。紙切れの家に消しゴムの車。小さな魚の群れがあちこちで泳いでいる。ありったけのおもちゃ箱の中身と、ありったけのホラ話で作ったようなヘンテコな街だった。それにもう結構歩いてるけど、でも今まで誰にも会わなかった。ここには誰もいないんだ。なんでなんだろうな……

 こんなところでいったい何をしているかというと、ボクには探さなきゃいけないものがあるのです。でもそれが何かはまるっきり思い出せないんだ……困ったな。それにこんなトコ、どうやって来たんだろう? いったいボクは何を探してるんだろう? 探してたらそのうち思い出すかなと思ってさっきからずっと探し歩いてるのです。早く思い出したいな……

「おーい」
「おーい」
「おーい!」

 ボクはふと思いついて、探しものに呼びかけて歩きました。なぜならもしかしたら探しものは人とか犬とか、とにかくそんなものかもしれないからだ。そしたらきっとボクのトコまで来てくれると思うのです。でも、いくら呼んでも返事はなかった……おかしいなあ。キミのこと、呼んでるんだよ? 返事しろよ。おーい! 

 その次にボクはガラクタの山に頭をつっこんで、ガラクタを掘り返し始めた。もしかしたら、探しものはなくしたおもちゃかもしれないからだ。そしたら、呼んでも返事はしないよな。やっぱりものなのかな。ブリキの犬。緑いろの木のトラック。超合金のロボット。白いさんしょううおのヌイグルミ。魔法の小びん。ツヤツヤした棒きれ。クレヨンのかけら。絵本の切れ端。でもどれも違うんだよ……そう思うと少しかなしくなる。けれどもそれは逆にいえば、きっと探しものを見たらちゃんと思い出せるに違いないということだ。そのことに気づいてボクは少しほっとしました。

 ボクは地面を掘ってみた。手で白い土を掘っていくと、ほねのかけらやスリッパ、鍵なんかが混じって出てきた。どこかの犬が隠したんだろうな……それらは触るとすぐにボロボロになって崩れました。両手はあっという間に泥だらけになる……もっと掘ると土は今度はピンクになった。その次は黄色。もっと掘ると青。そのうちに飽きたから、ボクは立ちあがって別のところを探すことにしました。

「おーい」
「おーい」
「おーい!」
 
とりあえずボクは呼びながら歩き続けました。足は白い霧に半分くらい埋もれている。なんだか水の中をかき分けて進んでいるみたいだ。早く見つからないかな……でも誰もいないし、探しものは見つからないし、なんだかだんだん悲しくなってきた……どうして見つからないんだろう……なんで忘れちゃったんだろう……急にそれまで優しく降っていた雨が、蒼く染まっていった。雨脚も強くなる。ほんとにボクは泣き出したいような気分でした。
すると突然、空からふわーっとおばけが降りてきたのです。そして声を上げる間もなく背後からボクに取り憑きました。ちょうど背中から抱きつかれているような感じだ。その瞬間、ボクの体は少し軽くなったように感じました。どうやら優しいおばけのようでした。なんだよ……いても意味なんかないんだけど、でもいないよりかはいいかな……ボクはうなだれてそのままトボトボと歩き続けました。

 でも相変わらず雨の勢いは強いままだ……我慢してたけど、やっぱりもう駄目だ……ボクは涙をこぼしました。拭いても拭いても止まらなかった。胸が張り裂けそうだった! ボクは足をとめました。

『どうして泣いてるの?』

 不意に肩のあたりからか細い声が聞こえてきた。おばけだ。なんだ、しゃべれたんだな……

「雨が冷たくて痛いんだよ……!」

 ボクは肩を震わせた。

『そうか……』

 そうちいさく呟いたのが聞こえた。一瞬、白いシーツが視界いっぱいに広がったように見える。次の瞬間には頭の上に大きな傘が広がっていました。

『もう痛くない?』
「うん……」

 ボクは急いで服の袖で涙を拭きました。不思議なことに、涙はもう出てきませんでした。

「もう平気……」
『じゃあ、歩こう。探すものがあるんでしょ?』

 キミはなんで知ってるの……? おばけだからかな……? 不思議に思って頑張って首をひねっても、背中に抱きついてるおばけの姿はよく見えないんだ。かろうじてふわふわ浮かんでいる白いシーツみたいなものだけがちょっとだけ見える。

「でももうずっと探してて疲れちゃったんだ。少し休みたいよ……」
『じゃあ案内してあげるよ。時間ならいくらでもあるから、ゆっくりと探してもいいんだよ。今は休もう……』

 ボクは後ちょっとだと思っておばけの案内で歩き始めました。おばけはホントによく知ってるな……ボクらはあっと言う間に小さな食堂に着いた。ボクはあたりをキョロキョロと見回しました。もう何年も使われていないみたいで、少し散らかっていた。

『隅っこにクッションのふかふかした椅子があるんだ』

 ボクはおばけの言うように隅っこから上等な椅子を運び出した。

『食べものは缶詰と壜詰があるし、ちょうど調理場に焼きたてのパンと今朝届いた牛乳、それに卵もあるよ』
「なんでそんなものがあるの? 誰も人なんかいないのに」

 ボクは不思議に思っておばけに訊き返しました。

『確かにここには誰もいないけど、それでも君みたいに迷い込んでくる子がいるからね。この街には必要なものがそろってるんだ』
「ふーん……」

 おばけの言っていることはなんだかあんまりよく分からなかったけど、とりあえずそれでいいことにしました。

 ボクはほこりをかぶっていた食器を綺麗に洗い、鉄の重いフライパンにバターをひいて、卵と壜詰のソーセージを焼きました。その他にもピクルスやオリーブの壜詰、イワシのトマトソース煮の缶詰も見つけた。コップに新鮮な牛乳を注ぐと、ボクは両手に食事の載った盆を持って大きなテーブルに運んだ。でも、こんな大きなテーブルなのにひとりで食事をするのはなんだか寂しいよな……

「キミと食事ができたらもうちょっとマシなんだけどな……」

 ボクはソーセージをフォークで切り分けて口に運びながら、ぶっきらぼうに言った。ずっと聞こえる雨音がとても品の良い音楽みたいでいいな。食べものはどれもなかなかおいしかった。それを誰かと分かりあえたらな……

『悪いね……でもひとが食事をするところを見るのはやっぱり楽しいものだよ』

 おばけは珍しく少しわくわくしたような声でささやいた。事実、支度をしている間から、楽しげな気配が背中を伝わっていた。ほんと、優しいやつだよな……

 一通り食事がすんで何杯目かのコップの牛乳を飲み干す頃になると、ボクはおなかが満たされてなんだか眠くなってきた……思ったよりも疲れているのかもしれない……

「なんだか眠くなってきたよ……」
 ボクは椅子の上で丸くなった。まぶたが自然に落ちてくる……おばけは優しい声で言った。

『おいおい、そんな小さな椅子の上だったら、落っこちちゃうよ』

 椅子が自然と寄り集まって来て、こぼれかけていた手足を支える。おばけは穏やかなままで続けた。

『ゆっくり休むといい。焦らないでも時間はたっぷりあるからね。いくらでも眠っていいんだよ。探しものは逃げないからね……』

 白いシーツが体を覆うのをウトウトしながら見た。

「そっか……よかった……」

 ボクは安心して眠りに落ちていきました……



 どれくらい時間が経ったんだろう? ボクは目を覚ましました。相変わらず雨は降り続いているみたいだ……目をこすってぐっと伸びをする。疲れはすっかりなくなっていました。ボクは椅子から降りた。

「じゃあ、そろそろ行こうか……」
『そうだね』

 ボクらは食堂を後にした。蒼い雨と桃色の雨が同時に降っている。すごく綺麗だった……ボクはしばらく立ち止まって見入った。

「なあ」

 ボクはなんとなくおばけに話しかけた。

「この街ってなんでずっと雨が降ってるのか、知らないか……?」

 顔や手に当たる雨は暖かかったり冷たかったりする。でもやっぱり濡れはしない。それはボクがこの街の住人じゃないからかもな……

『うーん……それはこの街がとてもかなしい街だからさ。上手くは言えないし、言ってあげられないんだけどね。ごめんよ』

 おばけは少し口ごもった。

「ふーん……」

 ボクは白っぽい瓦礫を蹴飛ばした。

「もう少し見ていてもいい?」
『もちろん』

 なぜ? と思ったけど、訊き返さなかった。おばけもそれ以上は何も言わなかった。ごまかしても全部伝わっちゃうんだろうな……ボクらはそんな距離だ。

「もういいや。行こう」

 ボクはおばけを背負って歩き出した。

「ねえ」
『なに?』
「ボクの探しものって何なのかな……?」
『……分からないよ。僕は君じゃないから』

 おばけは困ったような声で言いました。

「だよなあ……どんなものなのかな……」

 ボクは頭をかきました。

「それさえ分かれば探せるのにな……」
『大丈夫だよ。そのうちきっと思い出すよ』

 肩のあたりから聴こえるおばけの声は優しかったけど、ちょっとかなしそうだった。なんでだろう? でもボクはあんまりそのことについて深くは考えませんでした。


 ボクらは誰もいない誰かの家の中を覗いたり、お菓子を勝手にもらったりした。はちみつのヌガー、ミントキャンディー、チョコレートファッジ、レミントン。エクレア、レモン・ビスケット、グミベア。お菓子を好きなだけ食べられるって幸せな気分だ……食べ歩いてたら手がベタベタになったので、噴水できれいに洗った。拭くものがなかったのでおばけのシーツで拭いたら、おばけが慌てたので面白かった。

 おかしいんだけど、この街には公園もあった。ブランコに乗って雨粒を蹴散らした! おばけのシーツが風にはためいた! ボクらは笑いあった。雨がボクの顔を叩く。ボクは振り子運動に合わせてブランコから飛び降りました。

 調子に乗って、ボクは歩きながら歌を歌い出した。昔よく歌った歌だったんだけど、今きゅうに思い出したんだ。もうだいぶ歌ってなかったけど大丈夫、歌詞はちゃんと全部覚えていた。大好きなのに、全然歌っていなかった気がする。なんでだろうな……気付いたらおばけも一緒に歌っていた。キミも知ってるんだな。肩越しに目で分かりあいながらボクらは歌った。同じものを食べられなくても、触れなくても、こうやって一緒になれるんだ。ボクら、体が宙に浮きそうだった! 

『あっ』

 急におばけが声を上げた。

『見て! 太陽が落っこちる』

 慌てて空を見上げると、卵の黄身みたいな色をした太陽がものすごい速さで転がっていました。それにつれてあたりがペンキをぶちまけたみたいにすぐにオレンジ色になる。それはほんとにすごく綺麗だった! あっけにとられて観ていると、太陽はあっという間に世界の縁まで転がり落ちてしまいました。そのとたんに世界は蒼く染まった。でもそんなに暗くはなかった。反対側からはもうまっ白い満月が出ていたんだ。


 そう思った瞬間でした。からだがふわっと浮き上がったのだ。ついでにボクに取り憑いていたおばけはボクから離れてしまって、かぶっていたシーツもはがれてそばに浮いていた。その時、ボクは初めておばけの顔を見たのです。


「あっ!」
『思い出した?』

 おばけは寂しそうな顔で、でも優しく笑いました。

「ボクが探してたのはキミだ! なんでボクは気付かなかったんだろう? なんで? なんでキミは教えてくれなかったんだよ!」

 キミはやはり情けない笑い顔のままだ……ボクは悔しくて悲しくてべそをかきました。

『思い出したらまた一緒にいられなくなるから……きみが忘れてる間だったから一緒にいられたんだよ』
「でも、友達のこと忘れるなんてあり得ないよ!」
『ううん、ぼくが忘れてほしかったんだよ。またぼくのこと、忘れてね。そしたらまた会えるから』
「そんなの、いやに決まってるだろ……」

 ボクは押し殺したような声で言いました。キミはそれを見て、困ったように笑った。

『ここは忘れ物の街だったんだよ。もうどこにもない探し物が見つかる街。でも、それが見つかるのは捜し物を忘れている間だけなんだ。ひどい話だよ。でも優しい話だ』
「やだよ。そんなの、絶対にいやだ! 行くなよ!」

 ボクは必死でキミの腕をつかんだ。でもすり抜けてしまった。

『ごめんね……でもすごく楽しかったよ。また遊んでよ』

 キミは月から降りてきた虹の布ばしごにつかまってどんどんのぼっていってしまう。まるまった背中が途中で少し震えたのをボクは見逃さなかった……


 そろそろボクも帰らなきゃいけないんだな……もうここに用はなかったし、ここもボクに用はなかった。もうキミの姿も見えなかったから、大声で泣いた。途端にバケツをひっくり返したように土砂降りになった。一瞬でずぶ濡れだ。もう何のかたちも分からなかった。


 そういや、いっときだけ、いつからか雨はやんでいました。いつからだっけな……思い出せなかった。







終わり





  1. 2011/08/24(水) 19:50:07|
  2. 短編
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