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邦楽ロック、ニッチ、キセル、フジ、メレンゲ



 実はこれ、レポートをほぼ書き変えていない文章である。だが書きたいことを書いているので載せたい。同じことを繰り返し書くことも大切だと内田樹も云っていた。しかし内田の娘の名前はヤバい。という訳でどうぞ。






 邦楽ロック。その音楽性は多種多様で、メロディック・パンクやメロディック・ハードコアを志向するもの、エモ、パワーポップ、グランジ、ポストロック、エレクトロニカ、アンビエント、シューゲイズ、サイケ、プログレ、グラム・ロック、歌謡曲の要素を持ったもの、あるいは60年代や70年代などの特定の時代の音楽性に回帰したものなど、かなり細分化が進んでいる。その雑多な「ロック」をまとめ上げているのが、メディアである。CSの音楽チャンネルや音楽雑誌などだ。邦楽ロックを扱っている雑誌で最も大きな影響力を持っているのは『ロッキング・オン・ジャパン』だろう。この雑誌に取り上げられるバンドは時として「ロキノン系」と呼ばれる。むしろ蔑称に近い意味合いで。そういったメディアはある括りの中のアーティストのみを発信し続け、リスナーはほぼそこからのみ情報を得続ける。つまり、そういったメディアに取り上げられない、不可視化された存在がいるということだ。そこにニッチがあるのだ。

 よくない音楽はどうでもいい。素晴らしいのに「売れない」音楽とは何か。本来カテゴライズし得ない音楽であるにも関わらず、無理矢理表面的にいくらか類似するジャンルに押し込められ、本来ヒットするであろう層に認知されず、カテゴライズされたジャンルのリスナーにも評価を得られないもの。バンド自体のクオリティの問題ではなく、それを支えるスタッフの手腕・戦略に問題があるもの。特に現代にあっては「知名度」を得るというのは何にもまして重要だ。ひとつのバンドの情報など、その他の膨大な量の情報にあっという間に埋没する。そういった場ですべての表現者は戦っていかなくてはならない。そういった現状は実に歯痒いものだ。

 そういった現在の邦楽ロックの直面している半ば不可視化された問題について述べれば長くなるだろうし、愚痴めいていてよくない。そこで、具体的に小生がおすすめしたいバンドをいくつか挙げたいと思う。おすすめしたいものは星の数ほどあるが、紙面の関係上、ここはキセル、フジファブリック、メレンゲという3バンドに絞り簡単に述べることにする。

 キセルは宇治市出身の辻村兄弟によって結成されたバンドである。くるりとは大学の同期であり、村上隆がファンを公言していることは有名だ。打ち込みを主体としており、口笛、ミュージカル・ソウ、レコードのサンプリングなどを用いた静かで柔らかい不思議な音楽性でありながら、歌詞は深くいくらかの毒を含む。音楽性としてはいくらかフォークロック寄りか。最早ここまで来ると「キセル」というジャンルとして確立しているような気もする。現在、「京都」を体現しているバンドといえばくるりだが、個人的には京都の柔らかさと闇の深さを体現しているのはむしろキセルのように思う。くるりの描く「京都」はオリエントとしての「京都」ではないか。そのもっちゃりとした雰囲気からライブでも下手をしたら(椅子があったら)寝そうだが、日本が誇るべきバンドである。

 フジファブリックは山梨県富士吉田市出身のボーカルギター志村正彦が中心となって結成されたバンドである。奥田民生から読経のようなボーカルを受け継ぎ、ブラジル音楽・プログレ・歌謡曲・その他様々な要素を取り込んだ変幻自在の音楽性を持つ。歌詞も情緒豊かなものからサイケデリックなものまで幅広い。フジファブリックが何故ともすると滑稽と取られかねないにも関わらず、あまり過小評価されることはない。それは志村の血の滲むような努力の賜物でもあるが、最大の理由はどんな突飛で奇抜な曲であろうとも、そこに不思議な真剣さ、シリアスさがあるからだろうと思う。コンポーザーの志村にとって、この奇妙にねじれて現実離れした妄想は目をそむけることすらできない厳然たるリアルなのである。それはもう、痛々しいほどだと言っていい。結果として、志村は生き急いでしまった。志村正彦というフロントマンの大きな存在を欠いたフジファブリックはそれでも止まることなく動いている。

 メレンゲは宝塚市出身のボーカルギタークボケンジのソロユニットから始まったバンドである。宅録出身であり、フレーミング・リップスのドリーミーでサイケな音像、エレクトロニカやシューゲイザー、ポストロック、パワーポップなどを受け継ぎながらスピッツのようなポップさを持つ。歌詞はファンタジーのような空想の物語が多いが、さり気ない捻りが加えられていてドキリとさせられる。一見かわいらしい音楽なのでレコード会社などからもポップ路線を求められていたが、その実どんなバンドよりもロックだ。言葉選びのセンス、日本語の曲げ方も光っているが、あのエモーショナルなボーカルはいともたやすく「ポップ」という枠から突き抜けてしまう。少年のような細い声で、技術的に上手い訳では決してない。にも拘わらず胸を打ち抜く鋭さと強度を持つあの声は才能だ。
余談だが、フジファブリックの志村とメレンゲのクボは親友である。残されたクボは親友に対する思いを『アポリア』という名盤に昇華させた。アポリアと聞いて、デリダのアポリアのことを考えてしまうのは私だけではあるまい。

 以上のバンドを挙げた訳だが、どのバンドも彼らの才能が正当に評価されているとは言い難い。フジファブリックに関しては努力がある程度実っているように見えるが、志村不在の今、予断は許さない。邦楽ロックという商業芸術の一ジャンルに対する偏見や期待の地平がより開けて彼らの努力や才能が報われることを強く願っている。本来、カテゴライズという行為自体がくだらないことだということを忘れてはいないか。だから私は書くのである。おそらくこれからも。





  1. 2011/08/20(土) 10:00:00|
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  1. 2011/09/17(土) 20:03:04 |
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Re: タイムラグ

コメントありがとうございます。

 これを出した講義は可でしたよ。。試験がボロボロだったんで。苦笑 しかし大手雑誌は相当どうしようもないんだろうな。雑誌載るのに金を払わないといけないという時点で何かがすごくおかしいっす。クイップみたいに手作り感のある小さな雑誌はそこまでではないと思いたいですが。。。うーむ。ロックが聴きたいんじゃなくてたまたまロックも聴いてるってだけなのにイデオロギーまで作り上げようとするのは変だ。特に某ロッキングオン。

 キセルを初めて観た時にこんなでいいのかと驚いてそこから色々考え始めました。小生もコンプリートにはまだ程遠いので集めていきたいっす。ライブもいいっすね。MCも面白いしなあ。笑 キセルはオウガや踊ってばかりの国なんかの「ロックバンド」との対バンもしているのでもっと知名度上がってほしいなあ。。

  1. 2011/09/18(日) 13:55:04 |
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  3. 北田斎 #-
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