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OPY 6





 あの籠城生活の悪夢がやっと遠いものになりつつある今日このごろ。放課後、あたりの殺気に気を払いながら(入学してから癖になりました)第四九学習棟の部室へ向かうと、鍵がかかっている。

「何ッ……!」

 どうやら僕が一番乗りのようだった。……不気味だ。さり気なく刀の柄に手をかけながら、玄関脇のポストの中身を確かめた。いつ何時であろうと、部室へ来た部員はなぜか郵便物の確認を義務付けられているのである。お、あった。一通の封筒が出てきた。目の粗い紙で出来ていて、宛名は英字タイプライターで乱雑に打ち出されている。中には何か立体感のあるものが入っていて、不自然に膨らんでいた。

「なんだろう?」

 差出人の名は書かれていない。まさか、黒瓜先輩あたりがKKKなんかとよからぬことをたくらんでいるんじゃ……まあ、KKKは宗教団体じゃないが。

 触らぬ神にたたりなしと言うし、そのまま急用でばっくれようかと振り向いた瞬間、こちらに騒がしく向かってくる部長、堀田先輩、斎部先輩の三人に出くわした。

「やあ、毛利君! 早いねえ。優秀だねえ!」

 堀田先輩を小突いていたその手で、部長はにこやかに僕に向かって手を振って見せた。

「あ、はい……まあそうですね……」

 畜生、逃げ切れなかった! 思わず拳を握り締めた僕にはお構いなしに、部長は目ざとく例の封筒に気付いた。

「毛利君、君が持っているのは一体何だい?」

「あ、今ポストから出したところなんですけどね……」

 渋々封筒を部長に差し出す。

「ふむ……なんだろうね、これは」

 部長は封筒を繰り返しひっくり返して見ている。しねこい。さっさと開ければいいと思うのは、気が短すぎるだろうか……

「毛利君。これはたまたま部宛てになっているが、もし仮に幸徳井宛てだったとしたらそりゃあ慎重にもなるだろう?」

 斎部先輩が僕の気持ちを見透かしたようにそう言う。

「ですね。部長は方々から命を狙われてそうですもんね!」

 あ、どこからか殺気が。

「皆さん、こんなところでどうかしましたか」

 そうこうしているうちに、佐伯先輩と黒瓜先輩が少し遅れてやって来た。建物の前で群がっていたのをいぶかしむような顔をしている。

「あ、なんか変な封筒が届いたんですよ。一応、部長宛てじゃなくて、部宛てに」

 遅れた二人に、状況を簡単に説明する。黒瓜先輩がぽつりと呟く。

「怪しいな……」

 いや、あんたの方が怪しいだろ! 胸中で密かに突っ込んでいると、いつの間にか部長がべりべりと封を開けていた。全然大胆な開け方してますけど。

「フィルムだ……」
 部長は封筒から一個のフィルムを取り出した。今時フィルムかよ! まあカメラ好きだったら、今でも使っていたりもするんだろうけれども。

「まだあるね……こっちは現像した写真かな?」

 部長は同封されていた写真の束を一枚一枚めくっていった。

「山かな、森かな……何となく見覚えがある感じだな……ん? これってもしかして、うちの学校かい?」

 部長が斎部先輩に見せた写真をかなり無理な体勢で、堀田先輩がのぞきこむ。と、先輩の顔色がさっと変わった。

「あ、これ……僕が撮った写真っす」

 先輩の蚊の鳴くような声に、すっと場の空気が涼しくなった。英字の宛名。堀田先輩の写真。

「……まさかUFOを撮ったってフィルムじゃないだろうな」

 斎部先輩が皆の思っていることを囁くように訊いた。

「あ……多分そうだと思うっす……」

 黒い男たちが回収したフィルムが、ご丁寧に返却される理由。うちの部活はごく少数を除いてあんまり頭の回転が速い人間がいないけど、そんなもの、考えなくてもひとつしかあり得ない。

「おい、堀田」
 
 おもむろに部長が静かに先輩を呼んだ。部長が堀田先輩を名前で呼んだ……! 思わず悪寒が走る。さっと太陽が黒雲に隠れる。ヤバい。思わず天候変わっちゃうくらいヤバい。

「お前は撮ってもいないUFOの写真で、俺たちに何週間も無駄に籠城させたのか……?」

「ごごごごごごめんなさいぃ!」

 堀田先輩は漫画みたく真っ青になって震えた。もう、謝っているというより、ただの擬音にしか聞こえない。

「迷わずに死ね!」

 完全に本性を現した部長の放った、無数の想像し得る限りのおぞましい式神が堀田先輩に無慈悲に容赦なく襲いかかる。部員は自然と皆遠い目になった。

「…・・・部活、始めようか」

「……そうですね」

 斎部先輩の言葉に、いそいそと部室に入る。ちなみに、第四九学習棟は一部核シェルターになっている。

「今日の活動テーマってなんでしたっけ?」

 僕は白々しい笑顔で斎部先輩に訊いた。どこか遠くから地響きみたいな不思議な音がする。あれ、今日ってななめの日だったかなー?

「今日は佐伯の担当だな」

 斎部先輩が妙に爽やかに答える。

「え? あ、はい。拙僧(ぼく)です。密教について少し。気合入れていきます」

 佐伯先輩も、どこかあらぬところに目をやりながら力強く意気込みを語ってくれた。

「ははは。楽しみだなあ!」

 僕らは一気に階段を駆け上がった。


 こうして、僕らOPYのMIB騒動は今度こそ幕を閉じたのであった。












  1. 2011/01/26(水) 10:02:48|
  2. 短編
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