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we are the sunset party (and break fuckin' christmas!). 5


 チェスターは猫背でかがむようにピアノを弾き始めました。不思議な旋律でした。ゆるやかにコードが流れたかと思えば、途切れそうなアルペジオになったりします。古くさくて妙に懐かしいメロディだと聴いている人々は思いました。そこにチェスターの歌声が乗りました。

 澄んだ高い声です。でも綺麗な声ならどこにだっていくらだっています。彼の声はどこか遠慮がちなのに、とても強く響きました。聴いていて安心するような声ではありません。はっとさせるような強い気持ちがこもっているからです。彼の声は聴く人の胸を打つ力を持っていました。自分の気持ちをどうしたらいいのかわからなくて、全部ぶつけてしまっているような歌です。それは泣き出す一歩手前のようにも聴こえました。その声に、街の人々は目を覚ましました。そして、ひとりの少年のひとめぐりの日が来たことを思い出しました。その悲しみを思い出しました。

 旋律は次第に終わりに向かっていきます。それに導かれるように、一筋の閃光が金色の光の粉を撒きながら透き通るような闇夜に昇っていきまました。それがふっと見えなくなったと思うと、鮮やかな色とりどりの光の粒に弾け飛びます。花火でした。


「チェスター!」

 そこに立っていたのはデミアンでした。

「ずいぶん久しぶりだね……それにしても君はなんで泣いてるの? 情けないな!」

「うるさいな! バカ!」

「バカってなんだよ!」

 そこでふたりはたくさんの人に見られているのに気づいて赤くなりました。

「君ら、ふたりともアホだよ……」

 キキがあきれたように言いました。

「そんなことないよ……アホはデミアンのほう……ていうかなんでいるんだよ!」

 デミアンはおおきな目でチェスターを見上げました。

「なんでって、チェスターが泣いてばっかいるからだよ。言っとくけど、すごくうるさいの……いつも恥ずかしそうにしてて自信なさそうにしてるけど、もっと胸張ってよ。ぼくはチェスターのこと頼りにしてるんだから。それくらい、言わなくてもわかるでしょ。……もう泣かなくていいよ。ぼくのことなんか忘れていいよ。忘れたころになったらまた会いに来るからさ……いつまでも何やってるの? ぼくのことなんか忘れて、早くほかの誰かと笑えるようになってよ……」

 チェスターの泣き顔がすこし怒ったようにゆがみました。

「そんなことできるわけないだろ……そんなのさみしいよ……ほんとは嫌なくせにそんなこと言うなよ!」

 デミアンはおおきな目に涙をためて苦笑しました。

「チェスターがいつまでも苦しんでるよりはマシだよ……」

 チェスターは半ベソをかいて口をとがらせました。

「忘れられるんだったらとっくに忘れてるだろ……バカ。ひとりで勝手にいなくなりやがって。八十年くらいしたら、みんなでボッコボコにしに行くからな……震えて待て!」

 デミアンは笑いました。涙がこぼれていました。

「はは。楽しみにしてるよ! 返り討ちにしてあげる。でも当分は来なくていいからね……それじゃ。みんなありがとう。うれしかったよ」

 言葉が終るか終らないかのうちに、突然強い光が差し込んでデミアンの姿はかき消されるようにあっという間に見えなくなりました。夜明けでした。そしてひとびとは、外で夜を明かして体がすっかり冷えてしまっているのを思い出しました。

 誰かのことを思ってつらくても、夜はそのうち明けます。でも、つらい夜はつらいから繋がっていられるのです。かなしみを古びさせないから、誰かとの思い出を誇らしく思い出せるのです。つらい夜はつらい夜のまま、何度だって訪れればいいんだ。心に開いた穴は開いたままでいいよ。泣きたくなったらいくらでも泣くから……つらくたってもう構わないよ……チェスターは赤くはれた目をこすりながらそう思いました。なんだかひどくねむく感じました。


そうして、街は夜明けを迎えました。










おしまい


  1. 2010/12/24(金) 00:00:00|
  2. 短編
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