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we are the sunset party (and break fuckin' christmas!). 3

「チェスター!」

 キキは急に倒れたチェスターに駆け寄りました。チェスターは真っ青な顔で目をかたく閉じています。キキは唇をかみました。

「偏頭痛だ!……どうしてだまってるんだよ! なんで君たちはいつもそうなんだ! くそったれ!」

 キキは悔しそうに言いましたが返事はありませんでした。彼は苦労してチェスターを近場の倉庫まで運びました。偏頭痛には静かで暗いところがよいのです。

「誰か近くにいないかな……人手が必要だ」

 キキはポケットから信号用花火と呼び笛を取り出して脱いだオーヴァーをチェスターにかけると、倉庫の外へ向かいました。すると、どこからか綺麗な歌声が聴こえます。

「ついてる! ローズ! 近くにいるの?」

 キキの声にこたえて、曲がり角から小柄な女の子が顔を出しました。ローズはちいさくて見つけづらいので、味方にわかるように歌いながら歩いていたのです。

「キキ! そっちはうまくいってる?」

「学校の方面はうまくいったよ。でもチェスターが……きみ、薬持ってる?」

 それを聞くとローズはまじめな顔になって、肩からさげていたおおきなカバンから白い箱を取り出しました。

「ひととおりあるわ。頭痛薬でしょ? わたしに任せて」

「ありがとう。僕はちょっと他の仲間に合図を出してくる」

 ふたりは入れ替わりで駆け出しました。ローズはすぐにチェスターに薬を飲ませました。キキもいくらかすると戻ってきました。

「連絡はついたよ。グレアムたちが来てくれるって……どうかな? どれくらいでよくなりそう?」

 キキはローズの隣にしゃがみながら訊きました。ローズは首を軽くふりました。

「だいぶかかりそう……痛くなってすぐに飲まないと、薬もあんまり効かないの。強いやつをあげたんだけど……わからないわ」

「そう……でも君が近くにいてくれて助かったよ」

 ローズはふわふわと笑いました。

「わたしも少し役に立ててよかった。ところでとっくに霧は撒き終わってるけど、ほかの準備ってあとどれくらいでおわりそう?」

「うん……大体終わってるんだけど、まだチェスターのほかに運ぶものがあるんだ。チェスターが起きれば計画通りさ……」

 ふたりはチェスターを見つめました。

「僕はデミアンとチェスターが兄弟みたいに仲良しなのが愉快だったんだ……僕ももちろん悲しかったけど、でもチェスターは見てられなかったよ、ほんとに……今回はデミアンのためもあるけど、ホントはチェスターのためだよ……立ち直れなかったら立ち直れなくていいんだ。僕たちが出来る限り支えるから。でも我慢なんかしてほしくないんだよ……」

「そうね……」

 キキのことばに、ローズのぱっちりとした目がすこし赤くなったように見えました。キキはすこし重くなった空気を振り払うように話題をかえました。

「ローズ。君はチェスターの歌を聴いたことがあるかい?」

 ローズは首を振りました。

「ないわ。……彼が弾くピアノなら聴いたことがあるけど。彼はほんとに素敵なピアノを弾くけど、歌もうたうの?」

 キキはほほえんでうなずきました。

「チェスターのやつ、恥ずかしがってなかなか人前で歌わないんだ。でも彼はすごいよ……」

「全然知らなかった。うらやましいな……」

 ローズはまるいほおを少しふくらませました。

「そのうち聴く機会はあるよ……ところで少し手持ち無沙汰じゃないかい? 今は君がみんなが来るまで歌ってくれよ……」

 ローズはすこしほほえみながらうなずいて、静かに歌い始めました。






つづく

  1. 2010/12/23(木) 16:45:29|
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