inkblot

we are the sunset party (and break fuckin' christmas!). 2

「みんなはもう持ち場についてるはずだよ……僕が合図をしたら作戦開始だ……作戦ていうのは簡単にいうと、街のあちこちで強力な……わかるだろ? 『まどろみの霧』を撒くんだ」

「よくあんなものを盗んだなあ! バレたらたいへんなことになるよ……それで街のひとを眠らせるのか……」

「そう。そこでうまくいけば、道々クリスマスの飾りつけをゴミクズにしながら広場で落ち合うことになってる……上手くいかなかった場合はまたいろいろプランがあるけど、それはその時話すよ…・・・」

 ふたりはひときわ高い屋根の上から街を見下ろしていました。キキの足元には藤色の靄の詰まった頑丈そうなガラス壜が転がっています。街並みはぼんやりとかすんでいるけど、それはきっとボクの目のせいだ……

「クリスマス休暇で街に残ってるひとも少ないけど、いちばん厄介なのは学校だね……あの黒衣のやつら……どうするつもり?」

 キキはボクに何かを放ってよこしました。ガスマスクでした。

「あのくそったれなアンチ・アナパブテストどもは直接僕たちが行ってどうにかするんだよ……これからね」

 そういうとキキはマッチを擦って、オーヴァーのポケットから取り出した信号用花火の導火線に火をつけました。

「さあ、はじめようか」

 冬の澄んだ空に、茜色の煙が亀裂を走らせるように昇っていきました。




 屋根づたいに学校まで行くと、そこには異変を感じ取ったらしい黒衣の聖職者たちが集まっていました。すかさず、ボクは持ち重りのするガラス壜のふたを開け放って、壜を放り投げました。あっという間にあたりは薄青い霧に覆われます。

「……まずいな。解毒剤を持ってるやつがいる」

 キキが舌打ちをして言いました。見ると、大半は霧にまかれて倒れているけど、数人は素早く建物の中に戻ろうとしているようでした。

「ヤバいな……追いかけよう」

 ボクらは窓の古いガラスを破って校舎(カレッジ)に入りました。やつらは校舎を通り抜けて修道院に戻るつもり……修道院に戻られたら、ボクらの計画をぶっつぶす道具なんていくらでもある! 止めなくちゃ! 

「キキ、薬草学の教授室……通り道だよな?……寄ろう」

 キキはボクの考えを察したらしく、だまってうなずきました。教授室の鍵なんか、デミアンと一緒に何度も破りました。ボク、手は器用なんだよ・・・…こんなところに入るのなんか、一〇秒あればいい……
教授室の頑丈な戸棚をこじあけて、なかのものを物色します。あんまり危ないのは避けて、即効性があって使えそうなものをより分けてオーヴァーのポケットにつめこみました。

「息子たちよ、何をしているのですか」

 突然、声が厳然と響き渡りました。戸口に立っているのは黒衣の婦人(マ・スール)です。さっき霧をまいた時にはいなかったやつに違いありません。答えるかわりにキキが『金縛りの砂』を仕込んだ煙玉を飛ばしました。玉は婦人の胸にあたって、煙と悲鳴が同時にあがりました。ボクらはその横をすり抜けていきます。

「どうする? 薬ばっかりだと、解毒剤を持ってこられたら終わりだぞ……」

 走りながら、ボクはキキに話しかけました。

「武器がある場所もあるんだ……ただ、取りに行くと時間がかかりすぎる……」

「じゃあいいや……とにかく早く残りを追いかけよう」

 そうして焦りながら回廊を走っていると、数人の修道士が姿を現しました。遅かった! どうやらもう行って戻ってくるところのようです。オーヴァーのポケットに手をつっこむひまもなく、純銀の弾丸を込めた鈍い光を放つ拳銃を撃ってくる。ボクらはとっさにそばに飾ってあった甲冑の陰に隠れました。

「容赦ないね……!」

 キキは毒づきました。キキは小さいから、甲冑の持っている盾だけでじゅうぶんに体が隠れてしまうのです。いいな……

「それでもボクらはやらなきゃ……大丈夫。やるべきことはわかっているから、迷ったりなんかしないよ……」

 一瞬だけ、ガスマスク越しにキキの嬉しいようなはっとしたような悲しいような不思議な顔を見た気がしました。気のせいかな……

「そうか……そうだよね。さて、どうしようか……煙玉はもう使えないよ。視界も悪くなるしね……想定外だったよ……連中がこんなにクレイジーだとはね」

 キキは苦笑しました。黒衣の修道士たちは銃をぶっぱなしながら徐々に輪をせばめるように近づいてきます。

「あ、キキ。まだ万能ナイフ持ってるだろ?」

 キキはきょとんとした顔になりました。

「え? ああうん。持ってるよ」

 ボクはキキから万能ナイフを受け取りました。

「このまま地獄行きになるよりは学校で先生たちに説教される方がいいもんな……」

 そうひとりごちながら、涙で浸水したガスマスクを脱ぎ捨ててボクは万能ナイフで石の床を切り取りました。たしかに全く力がいらない! おどろきました。ボクはさっきキキが部屋に入ってきた時に刃の刻印を見ていたのです。やっぱりオクターヴォ商会のものはいいね! 

 階下に降りてきたボクらはだがしかし、危機を先送りにしただけでした。やつらが降りてくるのは時間の問題……さて、どうするか? 土煙の舞い上がる中でボクらは一瞬だけ立ち尽くしました。でもその一瞬が命取りなのです。案の定、煙の中から現れる人影がいます。ボクらもう終わりかな……

「君たちがデミアンの友人だね?」

 あらわれたのは黒衣の修道士ではなく、一人の紳士でした。背が高く痩せていて、黒髪から鮮やかな緑色の瞳が優しい光をたたえてのぞいています。

「ファー・プレイスのスキルヴィング博士!」

 ボクらの学校の卒業生で大天才……博士のことはまわりからよく話をきくので、すぐにわかりました。

「そうだ。ここは私に任せて君たちは早く行きなさい」

「なぜ?」

 ボクは不思議でしかたありませんでした。博士は全然関係ないのに。どうして?

「デミアンの父上とは昔からの知り合いなのさ。あの親子は少し素直じゃないところがあるから、いつも気になってしまうんだよ」

 耳なじみのいい優しい声でそう言うと博士は片目をつぶりました。

「さあ、早く行きなさい」

「ありがとう!」

 ボクらは急いで修道院を離れました。

「ぼく、実はスキルヴィング博士が好きじゃなかったんだけど、今はそれほどでもないかも……」

 キキがちいさくつぶやいたのが聞こえました。

「うん……ボクらはひとりじゃないけど、ひとりでがんばらなきゃならない時もあるからね……そんな時は博士みたいな優しさが困る時もあるよ……」

 キキははにかむようにほほえみました。

「そういえば、他のみんなはどうしてるかな……? 一回屋根に上がろうか」

 そばの家の玄関にかかっていたリースを放り捨てながら、ひょいと軽く屋根の上に躍りあがります。空を見ると、ところどころまだ薄くけむっているところがあります。

「お、テディーのところはうまくやって、他のところに助けに行ってるみたいだ」

 街はもう夕暮れの面影がわずかに残っているだけでした。

「これなら夜明けごろ、24日に間に合いそうだ……」

 やっぱりまだ、具体的な言葉をきくとすごく胸が痛みます……でもボクが弱気でどうする! ボクはなんとかキキにうなずきかえして、走り出しました。しかし、動揺したせいかそれとも何とか窮地を脱して少し気が緩んだせいか、たいへんなことになりました。

 突然、目の前に輝く蛍の輪が現れたのです。これはボクにしか見えていないもの……なぜなら、これはひどい偏頭痛の前ぶれだからです。どうしよう! いきなり出てきたから手持ちの薬はありませんでした。もう目がチカチカして、よくあたりが見えません。光の輪はギラギラと異様な輝きを放っています。まずい……とりあえずやれるところまではやるつもりです。キキには黙っておきました。偏頭痛はほんとにつらいものです。これが起きると、いつもは信じていない神様に祈ってみたりしてしまいます。もう二度と悪いことはしませんと思ってみたりもします。治るとすぐに忘れちゃうけど……

 しばらくして頭痛が始まりました。へへへ……思ったよりちょっと早かったな……頭は割れるように痛いのに、なんだか地面を踏んでいる感覚がなくなって足元はふわふわとした感じでした。もうクリスマスなんて二度と来なくていいし、何をがまんすることになってもいいからデミアンに会いたかった。何か特別なことがしたいわけじゃなくて、ただ毎日くだらないことをしてたいだけなのです。

 走っているうちにだんだん頭が混乱してきて、なんだかデミアンを助けるために走っているような気になってきました。誰かを助けることなんかボクには一生かかっても無理だ。それでも人はひとりで生きれるほど強くはなくて、何かを守らなければ生きていけないって誰かが言ってたよ……

 生きるって苦しみが多いよな。誰の苦しみにもたぶん絶対、ボクの手が届くことはありません。でも少し元気な時は少しくらい力になれないかなって思うんだよ。だけど、それはボクがたくさんの苦しみを聴きたくないからだ!

 彼の心のなかには誰のことばも届かないような遠い遠い場所があって、彼はいつもそこから目がそらせないでいました。そんなにずっと見てなくてもいいのに。少しくらいサボってもいいのに。ちょっとくらいなら誰かの手を借りたっていいのに。みんな、いくらだって貸すのに! 

「ホントは借りたいくせに……あいつはホントにバカだ……!」

 涙がまたあふれました。そしてそれからは何も分からなくなりました……





つづく

  1. 2010/12/23(木) 12:43:23|
  2. 短編
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