inkblot

Java

 岬のさびれた灯台に登ると、澄んだ空気が思いの外冷たくて、僕はふいに涙がこぼれそうになったもんだから、焦って目をこすった。昼間の灯台は少し肩身が狭そうに感じる。

 手すりから身を乗り出して海を見下ろす。鉛色の空の下で、海は群青色をしていた。群青色の絵の具は食べられると言っていたのは誰だっけ、と考えていたら余計寂しくなった。どうしようか。

 困っていると、いきなり頬に暖かいものが当てられる。見ると、両手にマグカップを持って彼が立っていた。礼を言ってマグを受け取る。

「寒いな」

 僕と同じように手すりにもたれかかって、彼は言った。

「そうだね……もし、冬に一人ぼっちで居たら、寒くてすぐ死ぬだろうな。だから生きものは冬眠するんだ、きっと……」

 僕の返事は半ば呟きのようだった。彼は肩をすくめた。

「でもお前は一人じゃないじゃないか」

 僕は黙ってマグカップに口をつけた。中身は濃いコーヒーだった。

「苦いな。砂糖切らしてたっけ?」

 そう言うと、彼はわずかに顔をしかめたようだった。

「甘いものの後には苦いジャバがいいさ。何だって甘いことばかりじゃない。そんなふりをするのも間違ってる。これが俺たちの望んだ世界だ。俺たちはこの世界を信じている。だから別に構わないさ。そうだろう? 大切な人達は今そばに居るんだから」

 彼の横顔は覚悟に満ちて誇り高かった。僕がそんな風になれるはずがない。

「僕はそんな風に腹を括ったりは出来ない」

 彼は意外そうに微笑んだ。

「まだしようとしてないだけなんじゃないかい?」

 僕はそんな彼の優しさが、好きなんだか嫌いなんだか分からない。


                                                                         End
  1. 2009/11/20(金) 04:46:33|
  2. etude
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