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星の由来――宝石と王様――


 れは僕がむかし、遠い東の国へ旅した時に聞いたお話です。そこに古くから伝わる伝説だといいます。


 白いターバンを風がなびかせ、青いモスクの屋根が光を受けてするどく光る彼の地には、ひとりの偉大な王様がいました。

 彼は国の民が誇る勇敢な王様でした。猛獣も敵国の大群すらおそれずに、先陣を切って打ち負かす姿は子どもたちの憧れの的でした。何物も怖れない王様の宝は美しい王国とそして彼の美しいお妃でした。

 王様はお妃をとても大切に思っていましたので、彼女にとても素敵な贈り物をしました。燃えるようにまっかなルビーや深い海の底のような蒼いサファイア、ゆたかな森をとじこめたような深緑のエメラルド。数々の宝石はお妃を美しく彩りました。

 王様はさらにそれらを求めて、さらなる危険な冒険の旅に出るのです。長い旅路から帰り着いた王様は、旅の塵を払う間さえ惜しんで差し出す宝石を受け取って微笑むお妃の顔に、どこか寂しげなかげりがあることに気づきませんでした。


 それは王様が月の砂漠と呼ばれる月の去らない美しい不毛の土地で、白い宝玉を探していた時のことでした。遠い故郷から、ひとりの使者が息も絶え絶えに王様のもとへ駆けつけて来たのです。

「どうしたのだ」

 王様は何かおそろしい不安に駆られて、使者にたずねました。
 使者は王様に伝えるのがつらくてたまらないというように、悲痛な面持ちで留守を預かるお妃が重い病にかかり、危篤であるということを告げました。

 その瞬間、王様はすべてを投げ捨てて、お妃の待つ王国を目指しました。七日と七夜を休みなく眠ることなく走り抜けて、王様は愛しいお妃のもとへと駆けつけたのです。しかし、王様は遅すぎました! 王様が戻った時には、お妃はすでにはかなくなっていました。

 王様はお妃のなきがらに取りすがって、大声で泣きました。どんな恐怖や国難を前にしても決して屈することのなかった王様の涙に、群臣たちはそっと部屋をさがって行きました。


 夜の帳が落ち込んだ、白亜の宮殿。涼しい夜風が大理石の柱を通って、寝室を吹き抜けていきます。そこに、よみがえる歌があります。弦をつまびく美しい音と、お妃のかなしげな歌声。

 ほんとうはお妃は宝石なんて要らなかったのです。ただ王様がそばに居てくれさえすれば。しかし自分の喜ぶかおが見たいがために危険をおかして宝石を持ち帰る王様の気持ちを知っていたお妃は、何も言わずに孤独に耐えました。

 弦をつまびく美しい音とお妃のか細い歌声。それだけがふたりの部屋に残っていました。すべてを悟った王様は言葉もなく立ち尽くすしかありませんでした。


 それから彼の地には朝が来ない日が訪れるようになったのです。王様は長い時間をおきさきの歌声の残る部屋に閉じこもって過ごしました。ああ、王様はほんとうに気づくのが遅すぎました! ただひとつ残された歌に涙を流し、王様はじっと考え込んだのです。それはとても長い時間でした。



 どれくらいの月日が経ったでしょうか。王様は長いこと窓辺にあった腰を上げ、お妃が残したもうひとつのものを持って部屋から現れました。そして臣下に命じたのです。家臣はしばらくして戻りました。黒光りする大きな大砲とともに。

 王様はお妃の残した美しい宝石たちを、大砲でひとつずつビロードのような深い藍色の空に打ち上げました。王様のお妃への愛のあかしは、上等なコートの上に留められたブローチのように、空に美しく輝く星になりました。


 これが、彼の美しい東の地の星の由来でした。


 ところで、伝説は彼の勇ましい王様の消息については、詳らかにしていません。ですが、いつからかかの地を覆う空の上には、寄り添い強く光るふたつの星があるということです。

 あなたも彼の地へ行くことがあったら、ぜひご覧なさい。心の底から涙が流れるような美しい光を放つ、あのふたつの星を。







おしまい



  1. 2010/09/14(火) 22:50:20|
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