inkblot

TEENAGE LAST 4


「 I'm so happy
Cause today I found my friends
They're in my head
I'm so ugly
But that's ok, 'cause so are you
We've broke our mirrors
Sunday morning
Is everyday for all I care
And I'm not scared...」


 薄暗い部屋を、抜け殻のような明るい曲が跳ね回る。ニルヴァーナの『リチウム』だった。

「ニルヴァーナは暗いと思ってるやつは多いみたいだけど、そうじゃない。グランジなんて新しい言葉も作られたりしたけど、ニルヴァーナはどこまでもすごくポップなんだ。不思議だけど。そこらへんに溢れてるポップソングのどれよりも……だからカートは自分の曲に殺されたし、だからニルヴァーナはあんなに怖くて悲しいんだ。そしてだからニルヴァーナは僕たちを救い得るんだ……」

 キキの影がゆらめいて、別のかたちを作った。

「たぶん、カートは優しすぎたんだと思うの。優しすぎるから、傷ついてしまう。優しすぎるから、わたしたちを救える……」

 キキはうつむいている。髪が顔にかかっている。キキの黒い髪が、わたしは羨ましかった。わたしの髪は染めていないから完璧なプロンドじゃなかったけれど、染めなくても綺麗な深い色をしているのは、やはり素敵だと思う。

「キキはなんだかカートみたいね」

 キキは友達が少ない。彼はそうして自分の世界を閉じてしまう。彼は今までたくさんの苦痛を味わってきて、傷付いている。彼は世界の醜さを憎んでいるけど、それと自分を等価値に見てしまう。だから彼は自分の世界を閉じて、そこを美しい音楽や映像や物語で満たす。

 わたしも似たようなものだからわかる。それでも彼の目はずっと美しいものを見出せる目なのをわたしだけは知っている。彼のその繊細さは彼を傷つけてしまうけれど、その優しさでいつか全てを愛せる日が来るのだろうと思う。その時まで一緒に居られたら、いい。

「ねえ、エコール」

 キキが突然切り出した。硬い声だった。

「伯父さんから聞いたんだけど……」

 キキもわたしみたいに彼の伯父さんと二人暮しをしているというのは聞いていた。とても物静かな人らしい。

「この間、エコールの伯母さんを見かけたって言うんだ。なんだか……遠い所へ行く仕度をしているみたいだって言ってた」

 キキがぱっと顔を上げた。

「エコールは何か知ってるの?」

 わたしは言いかけて、黙り込んでしまった。キキはわたしの目を見て、理解してくれたようだった。

「エコール。次善策を立てるんだ。まだすべきことは残ってるはずだよ……」

 わたしは黙ってうなずいた。



 わたしたちはそれからも小部屋にいるあいだはいつものように過ごした。もっと時間を大切にするようにはなったけれど。痛みの多い日々の中で、ふたりの時間はいつか壊れることが分かっている、甘く儚い最後の聖域だった。

 わたしたちは別々に出来る範囲で、裏から手を回した。それらは来たるべき時を遅らせることに少しは役立ったけれど、回避することはできなかった。それが明白になった後は、わたしたちはまた次善策に切り換えた。この日々に終わりが来るのなら、せめて美しいまま終わりを迎えたかった。その日のために、わたしにはまだすべきことがあった。





  1. 2010/09/08(水) 18:00:49|
  2. 短編
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