inkblot

TEENAGE LAST 3


 へ帰ると、ちょうど伯母さんが仕事へ出かけるところだった。

「帰ったの? 今日は早いのね。晩御飯はローストビーフがあるから、食べておいてね」

 いつもと同じことだったから、わざわざ言う必要も、聞く必要もないことだった。それにいい加減、わたしも大抵のことは出来る。

「わかったわ。でも伯母さん、最近とても忙しいのね」

 ふと、この人は何のために生きているんだろうと思った。何が楽しくて?

「ええ。もうすぐ大詰めを迎えるところだから。ごめんなさいね。いい子にしていて」

 伯母さんは疲れた顔で、おざなりにそう言って家を出て行った。わたしは服も着替えないで、ベッドにもぐりこんだ。もう何もかも嫌だった。涙がこぼれて、シーツに染み込んだ。




「エコール。なんだか最近、不思議なことに僕は君が去る夢ばかり見るんだ」

 昼休み、ぼうっとしていたわたしに、デミアンがそんなことを呟いた。

 デミアンはわたしたちの数少ない友人のひとりで、艶やかなブロンドに痛々しいほど大きな蒼い瞳を持っている。彼が持っているのは美しい顔だけではなくて、他にいくつもの素晴らしい才能を与えられているのに、彼のもどかしいほど自分を過小評価してしまう謙虚さと、人にすぐに打ち解けることのできない内気さが、彼を輝いて見せない。それでもわたしたちは彼が誰よりも輝ける人なのを知っている。彼はいつも人と違う所を見ているような不思議な雰囲気を持っているけれど、実はとても友達思いで、優しい。あとほんの少しだけ自分にも優しくしてあげられるようになるといいなと、わたしはいつも思ってしまう。その代わりに、彼からもらった分だけ、わたしたちが返すんだとも。

「おかしなこと言わないで。ここよりましな所なんて、たぶんないんだから」

「そりゃそうだね。キキも彼女に愛想を尽かされないように気をつけるべきだよ」

 デミアンはおかしそうにキキをからかった。デミアンはキキをからかうのが好きで、またいつものように目を意地悪く輝かせている。楽しそうなデミアンと少しふくれっ面のキキを見て苦笑しながら、わたしは少し嫌なものを感じていた。デミアンがふと言ったことが後に予言となったのは、一度や二度ではない。今度だけはそうならないでと、わたしはふたりを見守りながら強く願った。わたしの大切なものは今、ここにしかなかった。




  1. 2010/09/07(火) 18:00:38|
  2. 短編
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<TEENAGE LAST 4 | ホーム | TEENAGE LAST 2>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://kirschrot.blog40.fc2.com/tb.php/137-ab7841fd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)