inkblot

メダル

今上げる文章はFAB GALLERYで絵本として出展しようと思っている物語の地の文です。

まあ、絵の方はまださっぱり完成の目途が立っていないんですが。苦笑

フジファブリックのファンが、自分のために、あるいはフジファブリックのために、あるいは他のファンのためにという特殊な目的のために書いたものです。

実在しない人物は一人として出していないし。

だから、きっと独りよがりなものだろうと思います。まあ自分では客観視できないのでアレですが。

ぶっちゃけ、完成するか微妙になってきたのでここに上げてみようかと。

フジファブリックを少しでも知っている方、これを読んでいただけるのであれば、コメントか下のアドレスまでぜひ感想をいただきたい。

kitadaitsuki亜yahoo.co.jp

お手数だけれども。

教えてほしいのです。

これがやはり単なる自己満足なのかを。





いちばん上等のメダル



 いろんな人が来ては去っていくステージ。次にやって来たのは、ひとりの黒い服を着た少年でした。少年は大きな目できんちょうぎみにあたりを見まわすと、咳ばらいをひとつして彼の話をはじめました。

「こんにちは。僕は音楽家をしているけれど、今日はギターも弾かないし、うたも歌いません。話したいことがあるのです。どうか、きいてください」

 少年の顔は真剣でした。

「僕はたいてい音楽のことばかり考えています。僕はいつも音楽を作っています。一日に一曲はつくります。僕には音楽しかないのです。音楽がなかったら生きてなんかいけない。なぜかって言うとね、僕はね、ずっと主人公になりたかったのです。

 じぶんの人生で、胸をはって主人公になりたかった。そのために、ずいぶんたくさんいろんなことをやったけど、ぜんぶ中途半端なままで、何ひとつ一番になんかなれなかった。考えてみれば、そのどれも自分からはじめようと思ったことなんかじゃなかったな。でも音楽は初めてじぶんからやろうとしたことで、唯一じぶんが主人公になれることだったんだ!」

 少年はほおを紅潮させて、目を輝かせながらそう言いました。

「僕は音楽をやろうとした自分を評価できたのです。初めてのことでした。それから僕は憑かれたように音楽を作り続けました。

 僕の音楽を聴いてくれる人がいる。でもそういう風にしたのは僕で。そのためには、寝るひまも食べるひまも、遊ぶひまだってなかった。いや、本当は欲しくなかったのです。音楽を作っていない時の僕に、音楽家じゃない僕に価値なんてないから。だから僕は、人一倍がんばってきたんだ。


 でも昨日、僕はけっきょく一曲もつくれなかった。おとといは十曲もできたのに。

曲ができた時はとても幸せな気分だ。曲ができない時は最悪で……本当に、自分が世界で一番価値のない、役立たずのクズ人間に思える。

 しかたがないから、ひどい気分でベッドにもぐりこんだけど、眠れなくてずっと目を開けたままじっとしていた。


 どれくらいたったころだろうか、ドアをノックする音が聞こえて、誰かが入ってきた。それも一人じゃない、たくさんの人が部屋にぞくぞくと入ってきて、僕のベッドのまわりを取り囲んだのです。びっくりした。

『何ですか?』
 
 僕は体を起こしてあたりをみまわした。

『おめでとう!』

 その場にいた人々が声をそろえて僕に向かって言った。次の瞬間、無数のクラッカーが僕めがけて弾け飛んできた。

『君は表彰されたんだ! 僕たちみんなにね』

 その人たちはよく見ると、僕の知っている人がほとんどでした。でも僕はさっぱり状況が飲み込めなくて、きょとんとしたままだった。

『僕は……表彰されるようなことは何ひとつしていないよ』

 なんだか少し怖かった。きっと何かの間違いなんだろうと思ったのです。

『おや、君はおぼえてないのかい? 心外だなあ! 君はいつもいきなり勝手にボクんちにやって来て、だらだらとレコードを聴いて帰っていくだろ? とつぜん窓から入ってきたりなんかしてさ。つい憎まれ口叩いちゃったりするけど、ボクほんとうはそうやって君がなにげなく家に来てくれるの、とても嬉しいと思ってるんだぜ?』

 僕の親友は照れくさそうに言いました。

『お前、よく店に来て手伝ってくれるのはいいんだけど、コーヒーこぼしすぎなのよ。そのうち出世払いしてもらうから、覚悟しとけよ』

 僕をかわいがってくれている、喫茶店のおじさんは少しぶっきらぼうに言いました。

『君とは音楽の付き合いが長いけど、じつはふたりでくだらない話するの、すごく好きなんだ』

 ピアノ弾きはにっこりとそう言いました。

『君にとっては大したことじゃないのかもしれないけど、ボクたちはそんな君が好きで、そんな何でもないキミに救われているんだ。わかんないかもしんないけどね。ボクたちはそれを表彰して、キミにいちばん上等のメダルをプレゼントするよ。受け取ってくれるかい?』

 そう言って、みんなはきらきら光る金いろのメダルを僕に差し出しました。
僕は胸がいっぱいになって、何も言えなくなりました。

『そんな……僕は今日一曲もつくれなかったのに』

 やっとのことで言ったことばに、みんなはやさしく首をふりました。

『正直、ボクたちは君の音楽なんてどうでもいいんだよ』

 僕は冷たい水を浴びせられたような気持ちになりました。

『君がただそこに居るだけでいいんだ。君の心の中には、誰のことばも届かないような、とおいとおい場所があって、ボクたちが何を言っても無駄で、どうにもならないんだってことをボクたちは知ってる。でも言わずにはいられないから、こうして来たんだよ。さぁ』

 僕は黙って、こんどこそ差し出されたメダルをしっかりと受け取りました。




 気がついた時にはもう、窓から太陽の光が差し込んでいました。朝でした。いつの間にか眠っていたんだな。

 結局、それはすべて夢だったのです。それはぜんぶ僕が勝手に頭の中で考え出したことで、何ひとつ本当のことなんてないのです。なあんだって思いました。でもね、」

 少年は顔を上げました。
「でもね、それでも僕はほんの少し安心したのです。その夢のおかげで、今日もがんばってみようかななんて思えたのです」

 少年はそう言って、少し笑いました。とても素敵な笑い方でした。

「これで僕の話は終わりです。最後まできいてくれて、どうもありがとうございました」

 少年はおじぎをしました。その時、一人の観客が少年を指差して声を上げました。

「おい、君! じぶんの胸を見てみたまえ!」

「えっ?」

 少年の首の動きを、聴衆の目も一緒に追いかけました。

「あっ!」


  そこには、スポットライトの光を受けて、金いろのメダルがきらきらと光り輝いていました。







                                               おしまい




  1. 2010/08/18(水) 22:53:41|
  2. 音楽
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<フジファブリック presents フジフジ富士Q 6 | ホーム | 蒼い鳥>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://kirschrot.blog40.fc2.com/tb.php/118-1847fbdc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)