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四季盤(続き)

 て、最後にフジファブリックが誇るキラー・チューン、「銀河」の話をしよう。

まずは印象的な薄く鋭いギターのリフが風のように吹き抜けると、キーボードのグリッサンドから、

ギターとドラムのハイハットが何かから逃げ出すかのように疾走する。

同時にそこに感情の読み取れない、不気味なボーカルが乗り、Aメロの終わりからギターがもう1本、次いでクラビが、と徐々に音数が増えていく。

歌詞もよくわからない。Bメロには「タッタッタッ タラッタラッタッタッ」という謎の擬音に度肝を抜かれるし、サビではいきなりU.F.Oが登場する。

曲のインパクトもさることながら、それに触発されたプロモーション・ビデオもそれに劣らず強烈だったので、当時は話題になった。

今でこそ、意味不明な曲を売りにするバンドはたくさんいるが、フジファブリックはそのどれとも違った。

そういった他のバンドはいかにもおどけてみせたり、世界観を作っているように見せるものだが、フジファブリックは真剣だった。

真剣に、この曲に懸けていた。

思うのだが、傍から見て猛烈に不可解なこの歌詞も、志村にとっては普通の曲と同様にリアリティのある内容だったのではないか。

曲の進行に対して、歌詞で描写されるストーリーには特に進展がない。さらには歌詞にはめずらしく一人称ではなく三人称で語られている。

物語から一歩引いた視点になっているのだ。これはその他の楽曲でも度々用いられた。

フジファブリックの楽曲にみられる人称のねじれについては、またの機会にしたい。




 歌詞の中で、二人はなぜか真夜中二時過ぎ、街を逃げ出す。そして、夜空の果てまで逃避行しようとする。

どうしてそんな遠くへまで逃げ出さなくてはいけないのだろう?

四季盤のプロデューサーであった片寄明人は、「この歌詞から僕が受け取ったのは志村くんの『ここから逃げ出したい!』という強い気持ちだった。1stアルバムにしてすでに楽曲制作に追い詰められる日々を過ごしていた志村くん。彼が当時抱えていたプレッシャーが、すでに相当なものだったことを僕は知っていた。」と述懐している。


後年、フジファブリックは『CHRONICLE』というアルバムでソングライターの深い苦悩をすべて吐き出すことになるが、そのはるか以前から志村は曲の中でSOSを発していたのではないか。

人一倍、音楽のことばかりを考え、人一倍強い苦悩に苛まれていながら、志村のそれは、彼の(あくまで地味なのだが)エキセントリックな言動によって、どうしても奇妙で滑稽な妄想として捉えられてしまう。

彼ももう何年もそれに甘んじてきたが、とうとうそうしていられる余裕がなくなって『CHRONICLE』ができたのではないか。


しかし、だからといってそんなことを考えながらこの曲を聴きたいとは思わない。

こんな面白い曲を生み出したフジファブリックの感性に感服しながら、曲のよさを感じながら聴きたい。





  1. 2010/08/12(木) 14:10:43|
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