そのころには、物販のテントの前に並んでいた。始まったあたりから、行列はさらに濃縮され抜け出すのは困難だった。それよりは流れに逆らわずに出た方がマシだろうと耐えた。相変わらず、物販のお姉さん方はのろい。ひどくのろい。たしかに、休みない行列の処理に忙殺されてはいたかもしれないが、猛暑の下5,6時間も立ちっぱなしだった我々よりは元気だろう。
これは確実に主催側のミスだ。主催側も出演者も参加する者もほぼすべての人々が成功を願っていた特別な日なのに、対策不足が否定できなかったのは今思い返してもとても残念だ。大規模なイベントに明らかに場慣れしていないようだった。
これ以上待たせたら、私は倒れるぞ! と目をギラつかせながら前を見ていると、「バウムクーヘン」のイントロ、そしてクボの声が聞こえてきた。思わず、声がもれた。やはりすべてが売り切れた後の物販でひったくるようにして水を買い求め、客席を目指した。
濁流のような人ごみを抜け、客席につくころには「バウムクーヘン」は終わってしまっていた。クボは蒼いテレキャスを持って、志村が着そうな奇抜な柄のTシャツに麦わらを被って、いつものように照れくさそうに笑っていた。
「志村とはすっごい仲のいい友達でした……です」
そんなようなことを照れくさそうに言い直して、ギターを弾き始める。「赤黄色の金木犀」。作った本人ですら、「本当に気に入ってるんですけど、どうしてもライブであの良さが再現できない」と言って滅多にやらなかった曲を。。。。。
それは、この日で最も志村を強く感じた時だった。クボと志村の声が似ていると思ったことなんか、今まで一度もなかった。それでも、クボが歌う「赤黄色の金木犀」はその日の誰よりもフジファブリックだった。なんというか、彼は志村の魂というか、精神を持っているのだなと思った。それが、彼自身と重なり合っているようだった。
クボはメンバー・スタッフを除いては一番志村と時間をともにした男だ。それもプライベートで。週に何度か、クボの部屋でだらだらする時間は、志村にとってどれほど大きいものだっただろうか。そしてクボ自身にとっても、意識していなくともどれほど大きなものだっただろうか。
ほとばしる音を聴きながら、私はずっとステージの上を見つめていた。
続く
SET LISTクボケンジ(メレンゲ) 「バウムクーヘン」
「赤黄色の金木犀」
- 2010/08/10(火) 14:05:42|
- 音楽
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0