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20150424 メレンゲ 初恋の掟 その1


 客電がふっと落ちた。蒼い闇にオネアミスが流れる。拍手の沸き起こるなか、タケシタを先頭にメンバーが上手から現れる。最後に遅れて両手を挙げたクボが気がふれたように転がり出してきた揚句松江にぶつかりそうになっていて二度見したが、忘れることにした。

 各自楽器を手に取る。クボが手を挙げてSEを止める合図をしたがいっこうに止まる気配はない。仕方なくクボが「はじめますか!」と言って、止まらないSEを無視して轟音をひねり出す。開演である。一曲目は「旅人」。声は張り詰めている。しかし久しぶりだ。「迎えに来たよ お待たせ」という言葉はやっぱり特別なものとして胸に響く。なんか一気にあの頃まで戻ってしまう。思えばなんか遠くなったよな。どこかでずっとそこにいられると思ってたのかもしれない。

 松江のギターが渦を巻く。「チーコ」だ。「チーコ」を聴くとなんか懐かしい気持ちになるな。。。べつに5年くらいしか聴いてないのにな。変わっていないようで少しずつ変わっている。声も音源と比べたら大人びている。最後のサビの前でためて、「どうもありがとうございます」とマイペースに言う。そこからすごい熱量で歌い切る。

 クボが手拍子をあおる。「アンカーリング」。やはり声は隅々まで張り詰めている。ふと見えたヤマザキがめちゃめちゃ笑顔で叩いていて泣いた。よく知っている顔だ。でも今はもう、知らない顔をしていることの方が多い。クボの瞳もきらきらしていた。ただ水分が光を跳ね返しているだけだ。早くないかと言える資格は当然自分にはない。

 音が次第にある曲のイントロに収束していく。「ムシノユメ」。驚いた。はじめて聴いた。まだライブで聴いていない曲なんかたくさんあるけど、もうこのメンツでは多分聴けないままなんだよな。ギターとシンセが絡んでいく。声は出切らないところもあったが歌い切っていた。

「ようこそ、初恋の掟へ!」とクボンゲが声を上げる。演奏中はかっこよかったのに、MCとなると途端に陸に上がったフグみたいである。とりあえずの笑顔っぽい表情と空気が八割くらいの声で、いろんなものに呑まれそうになりながら訳のわからないことを言っている。

 「えー……なんだ、えー、今日は、あのー……ワンマンは去年くらいから、ここでやろうって決めてたんですけど……あの、ニュースとかでみんなみてると思うんですけど、、えー、あの、ちょっと、メレンゲにも色々ありまして、、えー、今日、この五人全員がメレンゲとして五人全員でやれるのは今日だけなんで! ぜひ楽しんでいただけたらなと! 思います!」

 息も絶え絶えにそう言う声を聴いてなんだか無性に悲しくなった。クボは今日すらもやっぱり脱退という言葉を口に出せないのか。ロフトでもそうだった。今日も、こんな日も最後まで口に出せないまま、あんなかなしい顔で苦しい濁し方をして終わるのだろうか。



つづく

  1. 2015/05/11(月) 23:19:37|
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