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20121024


 最近ちょくちょく芥川を読む。面白い。小さい頃は「大道寺信輔の半生」だとか「或る阿呆の一生」なんかを読んで落ち込んだり「羅生門」ばかり読まされてうんざりしていたが今になって読むと本当に面白い。「邪宗門」「六の宮の姫君」「Mensura Zoili」「悪魔」なんかやはり唸らされる。話が本当に楽しめるようになって来ると今更芥川が勝手に死んだのが惜しくなってきた。

 死ぬ必要なんて何もなかったのだ。内田百閒の「山高帽子」に出て来る睡眠薬でぐにゃぐにゃに酔っ払っている姿が悲しい。気違いばかりやたら気にしているのが悲しい。どんどん神経質に痩せ細っていくのが悲しい。遺書を読んでも悲しい。小生はここにおいてやっと芥川龍之介を人間らしく他人事でなく感じられた。

 斯様に85年と云う中途半端な時間が生み出す距離感もこうして超えられようものならばきっと未来にフジファブリックを聴く人間も同じように志村のさびしい死に様を悲しむに違いない。そうしたらやつも喜ぶだろう。そういう頃には小生も向こうで一緒にしたり顔をしたいものである。しかし芥川と月命日が同じというのは少し羨ましい。

 金木犀の匂いがして切ないと思ったらあっという間に大雨に洗い落とされてもっと胸が締め付けられる。簡単に忘れていきそうだがリマインダーはそこかしこに楔のように打ち込まれている。この調子ではいつまで経っても心の底から今のフジファブリックを楽しめない。まあでも一生そうかもな。全部全部あいつのせいだ。バカ野郎。でもそれでいいとも思っている。


  1. 2012/10/24(水) 23:47:03|
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2012.2.14 対バンの嵐 at 新宿LOFT その2



 もう一度幕が下りる。安っぽい「対バンの嵐」という文字が映し出されて確かまたアトミック・スウィングが流れたんじゃなかったんだっけな。10分だか15分くらいして幕が上がる。上がりきる前からギターの爆音が耳をつんざく。ヒックスヴィルの小暮晋也、中森泰弘。ヒップゲロー、コモンビルの玉川裕高。鍵盤の高野勲、パーカッションの朝倉真司。そしてドラムは鈴木、ベースは隅倉。今日、誰よりもここに立つことを許された8人がそこにいる。初恋の嵐のライブが10年ぶりに始まった。

 一際音のデカい玉川のギターに全ての音が、ノイズすらも絡みついて大きな太い音のうねりになっていく。と、そこに上手からひとつの人影がひらりと躍って中央のマイクの前に立った。この曲、この男。思わず目を見開く。「UNTITLED」、現れたのはクボケンジだった。

 シマウマ柄のカーディガンだったのは即刻意識から遠ざけることにしたが、フジQで精いっぱいだったこの男が果たして落ち付いて歌えるのかは気になるところであった。だがクボはギターを持たない手ぶらの両手でマイクをしっかり握り、目を閉じて歌い始めた。その声を聴いてさらにはっとする。ふわっとして壊れてしまいそうなほど繊細なのである。楽器の音が異様にデカいせいもあるだろうが、メレンゲの曲で聴けるような張り詰めた強さは皆無だ。本来非常にか細い声なのだがそれがはっきりしていた。曲がクボの声より遥かに強靭だからだ。不安定で危うい声である。これも悪くはない。しかし今回のクボンゲに挙動不審な動きは全くなかった。強くなっている。こいつはフジQの時より遥かに腹をくくっている。このへたれ野郎がここまで頑張っているというのは少なからず衝撃だった。

 間髪入れずに次の曲が始まる。メロウなイントロですぐに何の曲かが分かる。「涙の旅路」、今回クボンゲが歌ったのは大昔にカバーした2曲だった。「刻まれることを夢見てた」 この曲はクボンゲの声がよく合っている。サビでは声が張り詰め、そしてぐっと抑えられる。心の底から涙の流れるような曲だった。クボは2曲をしっかりと歌い切り、照れの混じった笑顔で万歳と一礼をして上手に去っていく。

 続いて現れたのはセカイイチ岩崎である。パーマがかかった頭に山高帽を深く被り、白いシャツに黒いチョッキ姿でクボンゲと比べるとかなり小柄だ。マイクスタンドの前に立ち、両手を後ろで組んで目を閉じて歌い出した。一曲目は「Good-Bye」である。岩崎を生で観るのは初めてで音源もそこまで聴いたことはなかった。生で聴くと音響の関係か、甲高く少しかすれて少年のような妙に幼い声に聴こえる。小さい体に甲高い声で振り絞るようにして歌う。何だか子どもみたいだったがなかなかどうしてとてもよかった。岩崎なりに西山に対して敬意と誠意を表わしていると思った。この「Good-Bye」は原曲を聴いている時に未だに思い出す。

 二曲目は打って変わってアグレッシブになる。「君の名前を呼べば」だ。原曲はそれほど激しいイメージがなかったがなかなかどうして生は激しい。バンドの音圧も凄まじいが水を得た魚のような岩崎もなかなか凄かった。音が耳を散々に嬲って去って行った後もしばらく圧倒されていた。

 MCなしで二人のボーカリストが終わるとよくしゃべりそうな顔をした男が現れた。堂島孝平、歌う曲は「罪の意識」だ。彼が歌うのを聴いて驚いた。西山に似ている。多分この日の出演者の中で一番近い存在だったかもしれない。少なくともゲストボーカルの中で別格な存在であることはよく分かった。もったりした序盤からの劇的な転調に度肝を抜かれる。西山もこんな風に歌ったんだろうか。

 二曲目の「化粧に夢中な女の子」はさらに真に迫っていたように思う。こんな曲を歌いながらもひょうきんな顔は変わらない。西山も一見軽薄にすら見えるような男だったということは大分後で知った。彼はどんな顔をして歌ったんだろう。

 曲が終わると初めてMCが始まった。ゲストボーカルの中でも旧知の仲であり、喋りの上手い堂島のところに設けたのだろう。内容はほとんど忘れたが面白かった。堂島にいじられると隅倉がすぐにスネる。それを観て「こんなキャラだったのか!」と思った。いやあ、ナイス。

 そして隅倉が緊張した面持ちで「ゲストボーカルに丸投げするのはよくない。けじめをつけるという意味でも一曲自分たちだけでやろうと思うので聴いてほしい」というようなことを口にした。隅倉が歌う「星空のバラード」が始まる。もともとボーカルではないし緊張しまくっているので技術的には覚束ない。だが悪くなかったと思う。手放しで「よかったよかった」と言うのはどうかと思うがだが欠点を補って余りあるものがあの時あの場にあったのは間違いあるまい。

 その後、これまたスーツ姿の松本素生が登場する。生で松本を観るのはこれが初めてだったがすげえ漫画みたいだった。一曲目は「初恋に捧ぐ」。これはずるいよな。誰がやったってずるい。見事に持って行かれた。そして最後の曲はと緊張していると、始まった。「真夏の夜の事」である。正直、これは松本素生が歌うべき歌ではないと思った。ファンの人には悪いが。今日のボーカリストで歌えそうなのはクボンゲと堂島孝平だが、クボンゲはおそらく曲に負けるのでやっぱり堂島くらいだろうか。あとはいないが曽我部恵一とかか…… いや、本当はそうじゃない。やはりどいつもしっくりとなんか来ない。西山達郎の歌が聴きたかった。結局誰がステージの真ん中に立っていようと、目も耳も心も西山一人の存在をそこに探っていた。今日の主役はやはりあの男ただ一人だ。

 アンコールで堂島孝平が最後にもう一曲だけ歌った。「Nothin’」だ。やはり声の高さや震え方が似ている。圧巻だった。これ以上ないくらい、西山達郎を感じられた夜だった。片手で持てるだけのCDを残して消えた、曲以外にほとんど何も知らない男を。まだ当分は忘れないでいられそうだと思った。






SET LIST

クボケンジ(メレンゲ) 1. untitled
2. 涙の旅路

岩崎慧(セカイイチ) 3. good-bye
4. 君の名前を呼べば

堂島孝平 5. 罪の意識
6. 化粧に夢中な女の子

7. 星空のバラード

松本素生(GOING UNDER GROUND) 8. 初恋に捧ぐ
9. 真夏の夜の事

(ENCORE)
堂島孝平 10. Nothin’



  1. 2012/10/15(月) 00:53:19|
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2012.8.30 FLY LIKE AN EAGLE at 渋谷公会堂  その1 ストレイテナー

 連日13時間ぶっ続けとかでバイトをやっていたのでめちゃめちゃ疲れていたが、このライブだけは本当に楽しみだった。初恋の嵐、テナー、TKというメンツで行かない訳がないだろう。渋公というハコも魅力的だ。そして多分これが初恋の嵐を渋公で観る最後のチャンスだった。

 午前中に生徒をしばき倒してから渋谷に向かった。渋公に行くのは久しぶりだったが迷わなくて良かった。何しろ久しぶりのライブだ。緊張している。開場し席についてからはすることもなかったのでひたすらステージの上を眺めていた。赤いノードエレクトロ。トップバッターはストレイテナーだ。

 予定の時間から10分ほどして客電が落ちた。開演である。

 ホリエは涼しそうな夏用の焦茶色のハット、ミルクティー色のシャツに色褪せたジーンズ、OJは脚なんか細いが顔は微妙にむくんでいるのでいつもと大して変わらないと思うがなんとなく心配である。

 OJが一番上手に陣取り、ホリエ、ナカヤマ、日向と席に着く。それぞれが軽く楽器をチェックする。そこからすぐに「You and I」が始まった。アコースティックだとよく分かるが、なめらかな波の流れに身を任せるような気持ちよさがある。音響の関係で音源より若干高く聴こえるホリエの生の声も久しぶりだった。

 曲が終わってホリエが「サンキュー」と声を上げる。拍手の中でホリエがアコギから鍵盤の上に指をおろす。すぐに打ち鳴らされるドラムは少し「Sad Code」っぽかったが鍵盤のフレーズが明らかに違う。「Toneless Twilight」だ。疲れた体に音が染み込んでいく。何だかホリエはしょっぱなから音を外していたような気がする。ホリエはあんまり客席をよく観ないがOJは本当によく見渡す。双眸は凄絶な光を湛えているが好人物である。かなり近い席だったので何だか数回目があった気がするが、目があった気がした後からOJがオーディエンスを見渡さなくなった。まさかな。。。序盤はテナーを観るのが久しぶりで緊張していたせいで確かにガンをつけながら観ていた気もするが。。妄想するならもっと楽しい妄想をしたいよな。そしてホリエは音は外すがやはり高音は綺麗だった。考えてみればホリエはあんまり声のコンディションが不安定というイメージのないヴォーカリストである。

 そして今度が本当の「Sad Code」だ。生で聴くのは本当に久しぶりだ。アコースティックでも全く勢いは削がれないので耳に優しい分アコースティックをもっと聴きたいかもしれないと思った。まあアコースティックツアーが終わってから思うことでもないが。OJのギターもよかった。

 曲が終わるとホリエがMCを始める。「最近は海や山でライブしていたので(溜め)、屋内は久しぶりです(満足げな顔)」という内容から口火を切る。音霊行きたかったぜマジで。。。その後すぐにナカヤマのツッコミが入る。だがホリエは意に介さず何故かやはり満足げである。


ホリエ:この後ひなっちはTKのベースも弾きます(ドヤ) おんなじ人なんで。笑 「なんか似てるなー」とかじゃなくて。同一人物なんで。笑

ナカヤマ:やっぱ「ストレイテナーとTKのベースが上手かった」っていう感想を聞きたいよね。

ホリエ:あのー、去年時雨と初めて対バンして。で、それからTKとたまに飲みに行くようになって。・・・ああ見えて、よく笑います!(ドヤ)

(オーディエンス爆笑。ひなっちが手を叩いて笑う)

ホリエ:(TKは)笑うと、キュートだよ。笑 

(笑い)

ホリエ:ああ見えて、実は甘いお酒を好みます!(ドヤ)

ナカヤマ:あー。。それはオレわりかしイメージ通りだわ。

ホリエ:謎のベールに包まれているTKの素顔を。。笑 

ナカヤマ:これはあとでピエールにしばかれるわ。笑 

(笑いが起きる。その後ひと段落して)

ホリエ:今日はありがとうございます。ストレイテナーでした。


 そう言いながら鍵盤の上で指を転がし始めた。前に聴いた時とは違う、よりギターの音がしっかりと絡みついたグル―ヴ感の増したアレンジだった。「SIXDAY WONDER」。以前よりずっと流れる水のような心地よい演奏だが、前の素っ気ない冷たい鍵盤の音がバラバラと転がるようなのも好きだ。

 その後間髪容れずに「LIVES」が始まる。イントロの最初の一音から爆笑した。『リニア』のレコ発ツアーではやらなかったが出来るようになったんだな。そういや『リニア』が出た時はエレクトロニカに行くのかとテンションが上がったがそうでもなかったので少し切なかった。

 ホリエが鍵盤をコロコロと転がして何かを言いかけたちょうどその瞬間にひなっちがベースをかぶせた。そこから「シンクロ」が始まる。「シンクロ」もやはり高音がいい。昔はやたらとうるさかったが今のこのグル―ヴは本当に気持ちがいい。アコースティックでもっと観てえ。。。

 曲が終わるとホリエは「さっき曲目を紹介しようとしたらひなっちとバッティングしました。苦笑 「シンクロ」という曲でした」と弁明した。「アコースティックはこれでしばらく封印して、10月にめちゃくちゃアッパーなシングルを出します! やかましい、やかましいシングルを出しますんで!(ドヤ) よければ買って下さい! ・・・じゃああと2曲やります」という言葉から一息つく間もなく始まったイントロにニヤニヤする。「KILLER TUNE」だ。変わらないな。こちらも変わらずにアガる。

 「KILLER TUNE」が終わると拍手の中から「最後の曲です」という声とともに聴きなれたアルペジオが始まる。思わず笑顔になる。「MELODIC STORM」だった。やっぱり好きなんだよな。起伏を伴って流れるように音の嵐が渦巻いて軽やかに降り注ぐ。気付けばOJも再び客席を見渡すようになっていた。拍手が巻き起こる中、彼らは去って行った。





SET LIST

1. You and I
2. Toneless Twilight
3. SAD CODE
4. SIXDAY WONDER
5. LIVES
6. シンクロ
7. KILLER TUNE
8. MELODIC STORM



  1. 2012/10/07(日) 18:13:44|
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