inkblot

ほたるの群れ

もう10日近く経ってるが、待望の!

待望の新作が出ますな!

我が師・向山貴彦の8年ぶりの日本語長編小説が!

楽しみだ。とても楽しみだ。



しかし、なんだろう、目の錯覚か? 「携帯雑誌」って何やねん。

「携帯よくない」と言った先生の言葉を胸に、約20年間、携帯などという軟弱なものを持たずに、孤高の自分を貫いてきたというのに!


ウソじゃん。騙されたじゃん。もうこんな世界は嫌だ。

クソったれめ。ハゲ散らかせ。





あまりにショックすぎて、ロストエイジの新譜をレコードで買ってしまった。

特にファンでもなかったのに。

それにしても、あんな絵描かれたら惚れてまうやろ。。。



  1. 2010/05/29(土) 23:44:42|
  2. | トラックバック:0
  3. | コメント:0

ある日記


ふと、10年後に思い出せるように最近の出来事を書きとめておこうと思った。

そうでもしないと、ほんとうに全てを忘れてしまう。

僕はそういう性質(たち)なんだと、どこかで誰かに言われた。

ほんとうにそうなんだろう。






ある金曜日


金曜日は「生命の起源」という講義を受ける。

とても変わった教授が担当していて、僕は彼の頭の上の陸繋島はいつになったら離れ小島になるんだろうかと、いつも気にしている。

その日、彼は縦縞のシャツの上に横縞の上着を羽織っていて、「重ねたらチェックになるな」と友人と囁きあった。




ある月曜日


僕の英語の先生は、イギリス人だ。

彼は "a pen(ア・ペン)"を、"エイ・ペン"と言う。

どうも、イギリス人てのはそういう風に発音するらしい。

どうしてなのか訊いてみたいが、訊くだけの英語力がない。




ある水曜日


急ぎ足で部室へ向かう。

なんだか後ろに人の気配を感じる。

おかしいな。

部室のドアを開けながら振り向いたら、肩で息をする先輩がいた。

「同タイミングで食堂の前を通ったのに、追いつけなかった!」

「お前ら、競歩でもやってたのか」

普通にしていると、遅れてしまう。

だから少し意識しているだけだ。




ある金曜日


フジファブリックの新譜の情報が出た。

まだ、リリースを喜んでいいんだな。

まだ鳴り止んではいないんだな。

また、リリースを喜んでいいんだな。




  1. 2010/05/29(土) 21:54:40|
  2. 雑記
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

10/5/24


日はずっと雨だった。雨の音ってのはいいよな。それ自体が音楽だ。

講義も早く切り上げて、家に帰った。

薄暗い部屋で、そっとレコードをかける。

今日はなんだかつらくなるから、いつもと違うものを。


初恋の嵐。


感覚的な懐かしさ。無駄のない、シンプルで芯の通った音だ。

強い思いを突き通すのに充分な強度と軽快さを持ったヴォーカルが、どこまでも響いていく。





止まるなよ。


  1. 2010/05/24(月) 20:12:28|
  2. 音楽
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

サウダーデの石


原正彦の『数学者の休憩時間』という本の後半を占める、紀行文だ。


愛する父・新田次郎を突然に亡くした藤原正彦は、翌年、新田次郎の絶筆となった『孤愁――サウダーデ』の取材旅行を完璧になぞる旅に出る。ポルトガルの果てに、いってしまった父を見出すために。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私は藤原正彦というおっさんが大好きだ。

あんなに人間らしい人間は、最近じゃかなり珍しいと思う。ものすごくいい気で、せっかちで、プライドにこだわって、意地っ張りで、血の気が多くてまっすぐだ。

あの顔とあのユーモアは、いつも最高に愉快な気分にしてくれる。両親譲りの引き込まれる文章は言うまでもなく素晴らしい。



でも、彼が新田次郎の没後に書いたいくつかの文章には、本当に心が震える。

私なんかにとって、新田次郎とは自分が生まれる前に死んだ、古色蒼然とした大小説家の一人に過ぎなかった。

けれども、藤原正彦は、語る。自分の父を、誇らしげに、嬉しそうに語る。

だから、あんなに尊敬し、愛していた父親を亡くしてからの彼のエッセイは生々しかった。

腹に力を込め、歯を食いしばるようにしているかのような、抑えた文体で書かれた父子(おやこ)の思い出は、読んでいて思いがあふれてくるようだった。


いつも茶目っ気にあふれている彼が、打ちひしがれているのだ。

肩を落として、しゃがみこんでいるのが見えるのだ。


父親のことを話す彼の顔は、心は、いつまで経っても、小さくて元気で鬱陶しい悪ガキのままなのだ。

藤原家の父子の旅を追いかけながら、私は私のなくしてきたもののことが次から次へと思い浮かんで、感情があふれてしまった。

私にだって、サウダーデはあるのだ。





ちなみに、外で読むのはお勧めしないのである。




  1. 2010/05/18(火) 22:18:39|
  2. | トラックバック:0
  3. | コメント:0

ぶっちゃけクローズド・サークルものは好きじゃない


最近、引っ張り出して読み返してみたら、意外と悪くないかもしれないと思ったので。

先輩が「米澤さん意識してるね!」とやたら言ってくるんだが、米澤要素はありませんて。

まあ、『インシテミル』記念にもともとあった話をリライトした気はする。

でも、後輩に読んでもらったら、最初は笑ってたのに後半黙りこんでしまったというのが一番の思い出ですよ。






「結末」




 川恭太郎は小説家である。もっと正確に言えば、新進気鋭の推理小説家である。センスの良い文体と豊かな学殖を以ってして、巧みな伏線使い、トリックに定評がある。決して衒学的(ペダンティック)にはならず、それでありながらディレッタントであることも特徴である。実は異なった筆名で全く方面の違う小説も数多く世に送り出していたのだが、本人の意向もあいま相俟って、それはあまり知られていないことであった。

 何しろ、大学時代からペンの収入があったため、一度も就職はしたことがない。三十路も半ばに達したが、同年代のサラリーマンと比べると随分と良い暮らしぶりである。妻は大学時代の恋人で、小柄ながら笑顔のかわいらしい色白の美人である。子どもはない。北川自身も顔立ちはあまり目立つほうではないが、文武にかかわらず多才で、カリスマ性に富み、背が高くまたスタイルの良さもあって、学生時代は周囲から高嶺のカップルと目されていた。ペットは愛猫が一匹いる。おとなしい、灰色がかった毛色のラグドール種である。

 職業柄、あまり家から出ることがないように思えるが、案外、資料探しや編集者との打ち合わせ、趣味の音楽鑑賞や観劇、友人付き合いや、十数年来の習慣であるジム通いなどで、家を空けることも結構多い。

 そして交友関係も広い。もともと人付き合いにはそつがないし、むしろ彼に惹かれて人は集まってくるものだった。覆面作家である北川名義の付き合いはほぼ皆無といってよかったが、学生時代から使っている筆名の方では公然と顔も出しているので、作家やその他のクリエーターの間でも顔は広かった。



 その日、彼を訪ねてきたのは脚本家の南野という男だった。もともとは役者をしていたのだが、現在では自身が手がける映画や舞台、ドラマなどで、脚本・演出・出演を兼ねることも多い。北川とは美大時代からの友人で、北川は版画科、南野は彫刻科の学生で、いつも奇怪な彫像を作っては良くも悪くも賛否両論を巻き起こしていたのを、よく記憶している。北川が制作した卒業制作の端正なリトグラフの風景画をこっそりオール・ドドメ色で刷ったことすらあった。あの時は本当に本当に大変であった。北川は一生あの時のことを忘れないであろう。やることにしろ、その髪型にしろ、とにかく異彩を放っていた。若い頃は桃色のアフロの中に巣を設けてカナリアを飼っていたが、愛鳥の死を期にドレッドヘアを編んで頭頂でカゴ状にし、ロイド眼鏡をかけるようになった。

「いつも思うんだけどさ……その頭って一体どうやって洗ってんだよ?」

 玄関に現れた南野の頭上のカゴを見て、北川は腕を組んだ。そもそも、単なるドレッドヘアにしても手入れの方法がちょっと不明であるし、それだけでも十分に手間と時間がたっぷりとかかりそうである。物好きもここまで来ると、尊敬に値する。

「いや、普通にほどいて。おいおい、これでも毎日ちゃんと洗ってるんだぞ?」

 ロイド眼鏡の奥の目をパチパチと瞬かせながら、南野は不思議そうに答えた。あまりに簡潔な回答に北川は更に悩みそうになったが、無意味な会話の早期収拾を図るため、この話題は終わらせることにした。しかし何なのであろう、このひょっとこ柄のシャツは。この間の大乱歩の肖像画がプリントされたものもかなりのインパクトがあったが。どうやら、最近の傾向から鑑みるに、南野のこの頃のお気に入りはどうやら、『お面シリーズ』と『肖像画シリーズ』らしい。         

 それにしても、この閑静な住宅街をよくここまで無事に歩いてこられたものである。前に訪ねてきた時はたしか職務質問が長引いて、朝来るはずが北川邸に到着したのは既に夜だった。大方、今日は運悪く巡回の巡査も風邪でも引いていたのであろう。全く、不敵も良い所である。

「まあいいや。上がれよ」

 北川は南野を応接間に通した。過度な装飾はなく質素ではあるが、雰囲気の良い部屋である。生憎、愛妻と愛猫はそろって友人宅へ出かけていた。自ら紅茶などを淹れて、南野をもてなす。そして、大して中身のない(しかしある意味有意義ともいえる)世間話にしばらく時間を費やした。

「で、仕事の方はどうなんだよ? ペンは進んでるか?」

 アールグレイに致死量に達する量の砂糖を投下しながら、屈託のなさそうな風で南野が訊いた。溶け残った大量の砂糖を、こいつは一体どうするつもりなのだろうか? というか、これってむしろ紅茶風味の砂糖ではないだろうか? 分からない。北川はそれとなくカップを注視した。南野が紅茶にブチ込む砂糖の量は特にいつもと変わらない。変わらないが、この男は同じことであっても毎回毎回リアクションが異なるので、ある意味目が離せないやつとも言えたのであった。

「今書いてるのはあとちょっとかな。ミステリ書きは副業だからね。本業の方も連載があるし、本もそろそろ出さないと。まあ貴君、作家たる者、締め切りだけが人生だよ」

 幾分か芝居がかった口調で答えながら、北川は目下処理してしまわねばならぬ仕事の数々を思い出して内心、武者震いした。如何に天才と雖も、作家たる者、一番怖ろしいものはやはり締め切りである。

「ふうん。さすが天才。いつも思うけど、お前ってほんとペンが速いよな。俺の方は自分じゃ作家より随分楽な仕事だと思ってるけどさ、やっぱそんなポンポンって訳にはいかないからな。あ、もうすぐ新しいドラマと、彫刻の方の個展が始まるんだ。観る暇あったら、俺の仕事に貢献してくれよ」

 南野のどこか白亜紀の地球を闊歩していたであろう太古の爬虫類めいた、それでいながらなんだか素直そうな顔を見ながら、北川は物思いにふけった。確かやつが今回脚本を書き上げたドラマの方はピュアなラブストーリーとか言っていた気がする。どの面下げてそんなものを書いたのかを想像すると、吐き気がするので北川はきっとそれを見ないだろう。そして個展の方は例の如く、現代美術の十キロ先をひた走ったようなモノどもが蠢いているのであろう。こっちの方も、見ると創作意欲に陰りが出そうなので、きっと北川は行かないだろう。しかし、このギャップもなんだかエキセントリックである。北川がこの変わり者と一緒にいるのは、別にこいつが特に好きだからとか、そんな理由ではない。この男といれば、自然と自分の影が薄くなることを計算してのことであった。人に注目されるというのは、心地よいものである。しかし、常に人から注目され続けるというのはなかなかに鬱陶しいものである。他人の目に嫌気が差した時、南野はいつもおあつらえ向きの隠れ蓑であった。

「前にお前の個展に行ったことがバレて、真っ当な読者をいくらか失ったんだけどな。佐東のやつ、勝手にブログに書きやがって。はっはっは。ばっちり、写真まで撮られてたもんなあ。ま、ドラマの方は見ておくよ」

 北川がプライベートを暴露した同業者に一抹の怨念を込めながらそう答えると、南野は少し笑って礼を言った。彼は北川のことを信じているのだろう。実のところ、本来の南野という男がそれほど陽気でもないことや、見た目ほど極端に捻じ曲がった人格を持ち合わせている訳でもないことも、北川は見抜いていた。


 おもむろに、南野が口を開いた。

「なあ。ちょっと、そこに立ってくれよ」

 また何やら訳の分からぬことを言い始めた。昔はこういった場合、こちらからも更に訳の分からぬリアクションをとって、即興コントのようなやり取りをしていたが、それは暇で心に余裕がある学生の特権である。特に、根を詰めて書いていた推理ものがやっと書き上がるという時にはそれも無駄なエネルギーの浪費となる。北川は然したる反論もせず、南野に従った。

「こうか」

「そう、そんな感じ。そしたら」

 南野は立ち上がって、北川の前に来た。そして、穏やかな表情を変えることなく、ポケットから取り出したものを北川目掛けて振り下ろした。

「あっ!」

 北川は南野に押されて、床に倒れこんだ。まだそれを握り締めていた南野も一緒であった。南野がゆっくりと手を離す。北川は震える息を吐き出した。

「ちくしょう、お前……これはないだろう!」

 北川の左胸にはナイフが突き立てられ、まわりのシャツの生地が赤く滲んでいた。


「驚いたか?」

「驚くも何も……呆れるな。何なんだよ、このタイミング。一体、どういうつもりだ?」


 北川は苦しそうではあったが、驚くほど冷静であった。口調も先ほどとなんら変わりがなかった。

「いや、人って死ぬ間際、どういうリアクションするのかなって思って。いや違うな。お前をあっと言わせて見たかったんだな。うん。お前がどういう反応するのか見たかったんだ。天才のお前ならさ、どういう風に人生にケジメつけんのかと思ってさ」

 南野は遠くを見ながら、感傷的に言った。その思考回路、やはりエキセントリックであった。北川は幾分か醒めた目で南野を見る。

「まあ人生にケジメつけるって言われても、こんな急だとつけようがないけどな。まあいいや。お前らしいよ。でもおい、事後処理とか大丈夫なんだろうな? こんなカゴ頭にや殺られたなんて知られたら、死んでも死にきれねーよ。深雪もお前のこと、蜂の巣にするかもな。あれで昔はクレー射撃やってたんだ」

「心配するな。その点なら抜かりない。それにお前のかわいい奥さんは、俺がちゃんと慰めてやるから」

 北川は普段表に出すことはあまりないが、実は相当な負けず嫌いである。さすがにしばらく悔しそうだったが、結局仕方なさそうに少し笑った。

「息は出来るはずなのに、やっぱり苦しいな。血が足んなくて、意識もなんだか朦朧としてきた気がする。ああ、そうだ。今書いてる推理ものが一本、殆ど出来上がってるんだ。読んでいけよ。深雪も今日は遅いしな。ゲラが上がってきてるから。書斎にあるよ。ま、なんだかんだ言って、お前といて楽しかったよ。じゃあな」

 北川恭太郎は目を閉じて、頭を垂れた。








 証拠隠滅、その他の細工を済ませた南野は、北川の言った通りに彼の書斎へ向かった。白を基調とした、シンプルで実用重視の清潔感あふれる一室である。四方を本棚で囲まれた部屋を見渡すと、果たして机の上に分厚い封筒が載っている。早速、椅子に座り込み、南野は北川の遺作のゲラを出して読み始めた。                                  


内容は北川が言ったように推理小説である。もっと細かく言うとすれば、クローズド・サークルものとなる。いわゆる、『嵐の孤島』系である。つまり、何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下で事件が起こるタイプの作品だ。この手のものは、新本格派作家たち――綾辻行人の『館シリーズ』や有栖川有栖の諸作品などで、もう既にマンネリ化して久しい。だからこそ、書き手の度量が試される訳で、若手の作家の中では米澤穂信の『インシテミル』など、敢えて王道に挑む者もあるが……

「恭太郎……やっぱりあいつは天才だ! 何なんだ、この文章に引き込まれる感じ……ミステリ嫌いの俺がここまで……!」

 米澤とは違い、閉鎖された館という王道のガジェットは使わず、斬新かつ極めて自然な状況設定を用いている。無駄がなく、スピード感のある文体。さりげなく張られた伏線の数々が織り成されて、ひとつ残らず驚愕の展開へと収束されていく。もともと、南野は速読家だったが、息をもつかせぬ展開にどっぷりとのめりこみ、自然とページを捲る手は速まった。           


 とうとう、全ての殺人が終わった。一堂に会す生き残った人々。そして、探偵は語り始める。ある被害者のついた小さな嘘。手間のかかる殺人法。そこにあるはずのないもの。ある人物がとった不可解な行動。探偵は注意深く、細心の注意を払って犯人の犯した微細なミスを拾い上げ、徐々に徐々に、犯人を緻密に張られた網の中へ追い込んでいく。ついに、探偵は犯人を指し示した。

犯人は誰だ。南野は次のページを捲った。

「えっ?」

 南野は言葉を失った。白紙だった。次のページを捲る。白紙である。肝心の犯人を明示する前に、物語は途切れていた。南野は完全に物語に心を奪われていた。何としてでも、結末を知らずにはおれない。

「誰なんだ、犯人は!……いや、待て。大丈夫だ。あわてる必要は無い。俺が今いるのは書斎だろ? あいつはよくメモをとる人間だったからな。どこかに犯人を示すメモなりなんなりが必ず残ってるはずだ……」

 南野は綺麗に整頓された机の上のファイルを探した。あった。この小説の資料やメモをまとめたファイルである。中身をぶちまけて、犯人を示唆するようなものを捜す。ない。それどころか、この後探偵が指摘するであろう複線についての資料も一緒にごっそりと消えている。探偵の今までの超人的な推理から犯人を導き出すのは、南野には不可能だった。犯人は誰だ? ふと、南野の血走った目が机下の白い屑籠に留まった。何故か、大量の灰が捨てられている。



 次の瞬間、南野は全てを悟って絶叫した。北川恭太郎はその霊魂と共に小説の結末を闇に葬り去ってしまったのである。勝敗は小説家の勝ちであった。





閉幕(カーテン・フォール)。





  1. 2010/05/17(月) 16:23:01|
  2. 倉庫
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
次のページ