inkblot

Java

 岬のさびれた灯台に登ると、澄んだ空気が思いの外冷たくて、僕はふいに涙がこぼれそうになったもんだから、焦って目をこすった。昼間の灯台は少し肩身が狭そうに感じる。

 手すりから身を乗り出して海を見下ろす。鉛色の空の下で、海は群青色をしていた。群青色の絵の具は食べられると言っていたのは誰だっけ、と考えていたら余計寂しくなった。どうしようか。

 困っていると、いきなり頬に暖かいものが当てられる。見ると、両手にマグカップを持って彼が立っていた。礼を言ってマグを受け取る。

「寒いな」

 僕と同じように手すりにもたれかかって、彼は言った。

「そうだね……もし、冬に一人ぼっちで居たら、寒くてすぐ死ぬだろうな。だから生きものは冬眠するんだ、きっと……」

 僕の返事は半ば呟きのようだった。彼は肩をすくめた。

「でもお前は一人じゃないじゃないか」

 僕は黙ってマグカップに口をつけた。中身は濃いコーヒーだった。

「苦いな。砂糖切らしてたっけ?」

 そう言うと、彼はわずかに顔をしかめたようだった。

「甘いものの後には苦いジャバがいいさ。何だって甘いことばかりじゃない。そんなふりをするのも間違ってる。これが俺たちの望んだ世界だ。俺たちはこの世界を信じている。だから別に構わないさ。そうだろう? 大切な人達は今そばに居るんだから」

 彼の横顔は覚悟に満ちて誇り高かった。僕がそんな風になれるはずがない。

「僕はそんな風に腹を括ったりは出来ない」

 彼は意外そうに微笑んだ。

「まだしようとしてないだけなんじゃないかい?」

 僕はそんな彼の優しさが、好きなんだか嫌いなんだか分からない。


                                                                         End
  1. 2009/11/20(金) 04:46:33|
  2. etude
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絶叫仮面

絶叫仮面絶叫仮面
(2009/08/26)
吉見知子

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非常にゆるーいクリエーター集団、スタジオ・エトセトラから出る、11年ぶりの小説。

著者はスタジオ・校正の鬼として有名な吉見氏。あらすじをまとめる自信がないので、アマゾンから。




「声を聞いたら、殺される――」
一年前に流行った都市伝説、「絶叫仮面」。
退屈な夏休みを送る高校生、神山沙月はその伝説に魅せられ、インターネットの世界に飛び込んだ。
顔の見えない相手。無機質なデータのやり取り。
そこは最初、とても安全な場所のはずだった。

しかし徐々に、現実と虚構の境界線は曖昧になっていく。
果たして、それは本当にただの都市伝説なのか?
それとも狂気の世界から舞い降りた怪物なのか?

小さなひびがひとつ、またひとつと現実を引き裂いていく時、命をかけた謎解きが始まる――。






 公式サイトで出されている問いに正解すると、隠しコンテンツが見られるのだが、最後の一門だけどうしても分からん。


 さすがにもうあきらめて、潔くヒントを訊いてみるか、正直かなり悩む。実際、その先のヒントは貰っているので、さらに悩む。いや、先生マジすいません。



 話自体も面白いし、このあふれんばかりの(まあ、実際あふれんばかりのこのQ6の難易度)サービス精神がさすがスタジオ・エトセトラ! やってくれるぜ! 今の出版業界でここまでの手作り度を可能にするってのは、なかなかできねーもんですな。本に、というか、その向こうにいる読者に対する愛情が感じられる本作りだよなあといつも思います。



……とりあえず、年内に解けなかったら土下座して訊こうと思う。

  1. 2009/11/10(火) 23:39:00|
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