inkblot

Confeito


「あの星が欲しいなあ」

 藍色の空を見上げて、アートがため息をつくように言った。

「そんなの無理だよ。あの星がある場所は、人の手が届くような所じゃないさ」

「そうかな」

「そうだよ」

 アートは首をかしげると、空から目を離して、足をブラブラさせながら自分の手のひらをじっくりと見た。

「でも僕、あれが欲しいんだ」

 もうこんな時間だから寝ぼけているのかもしれない。いつもはもっと聞き訳がいいのに、今夜のアートは随分粘っている。ニコデモは頭の後ろで手を組んだ。

「こんな話を知ってるか? 昔むかし、ある所にやっぱりお前みたいに星が欲しかった王様がいたんだ。
 王様はどうしても星を自分のものにしたかった。星を弓矢で射落とそうとか色々したんだけど、どれも失敗した。それで王様は塔を作るんだ。高い高い塔をだよ。王様はその塔の上から星に手を伸ばした。その瞬間、塔は崩れて王様はまっ逆様に落ちていった。その後王様がどうなったかは忘れたよ。
でも、最後まで王様は星を手に入れられなかったよ」

 これで諦めるだろうと思いながらニコデモが言葉を切ると、アートはゆっくりと首を振った。

「ニコ、あれは星じゃないんだよ。金平糖さ。今はあんなに高い所にあるように見えるけど、あれは幻なんだよ。もうすぐ空を切って落ちてくる」

 アートがそう言い終わるか終わらないうちに、数個の星が光の軌跡を残しながら、流れ星となって
アートの手のひらに舞い降りた。
あっけにとられているニコデモを見て、アートはちょっと得意げに微笑んだ。


「ほらね?」



                                                                                      end
  1. 2009/08/20(木) 03:43:08|
  2. etude
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今日の謎

「机につっぷして何してるんだ。人生に絶望したか。しかし、まだ早いみたいだぜ。次の授業が何だったか、よく思い出せ。数Cだ。第3学習室で、楕円がお前を待っている……ついでに来年で定年の田中も」

 たしかに、棺おけに両足突っ込んでいるような田中の授業も胃が痛いが……

「……腹が痛い」

「とうとう、数Ⅲに胃をやられたか。しかしまだ吐血するのは早いぞ。何故なら今度の試験は……」

 ……たしか、こいつは漱石が好きだったな。

「違う。胃じゃない。腸だ、痛いのは」

「なんだ、食中毒か。この時期はヤバいぞ、何といっても……」

 ビブリオ・バルニフィカスの名を出したら、殺す。言っておくが、俺の肝臓は至って健康だ。

「そんな訳はない。朝食はいつも通りにパンだし、昨日の夕食はハンバーグだった……」

 それに生憎、食中毒ごときで苦しむようなヤワな消化器官は持ち合わせていない。まあ、ヤワではない代わりに、かなり繊細な造りであることは否定できない。

「ふん。なら、原因は分かりきってるだろう」

「何だよ?」

 聞こうじゃないか。


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  1. 2009/08/10(月) 00:46:27|
  2. 日常の謎
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sometimes, i wanna talk 'bout ink.

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PILOTが好きだ。万年筆はもちろん、ペリカンやモンブランだが、ボールペンはHI-TEC-Cを愛用している。0.25ミリ! あの滲み! 万年筆ではつぶれてしまうディテールもしっかり表せる! 自分にとって、これが一番自由な線が書けるものかもしれない。

 かれこれ何年も使っているが、何故か赤だけはいつも不良品が当たる。赤だけに、採点用に使うことが多いのだが、私の書き方に致命的な癖があるかといえば、メインで使っているブルーブラックでそのようなことは一度もないし、同じ用途でオレンジも何度か使用したが特に不都合はない。使い捨てのペンとしては若干高いし、その点には不満が残こる。だがやっぱり良い。

 そのパイロットで随分前から気になっていたのがこの「色彩雫(いろしずく)」シリーズ。日本人の繊細な情緒に裏打ちされた微妙な色彩感覚と高い技術力をもってすれば最高のインクが作れるだろうと前々から期待しているのだが、なんとなくまだ試していない。青系インクに限りないロマンを抱くものとしては、露草、紺碧、月夜あたりを試してみたい。だが、如何せん、まだヴァリエーションに乏しいのと、ネーミングに深みがないのがいただけない。「夕焼け」って何だ。ちょっと笑ったぞ。いやいや待て待て、日本には夕焼けを表す美しい言葉がたくさんあるはずだ。これは藤原正彦を勝手に師と仰ぐ自分には見過ごせねえ。

「日本には、美しい自然や景色が多く存在し、またそれ等にはとても美しい名があります。 iroshizuku-色彩雫(いろしずく)シリーズは、その美しい情景から創造された彩り豊かなインキです。さらなる書く喜びと楽しみをあなたに。」

とあるのに、「孔雀」って。よく考えてみて欲しい。いねえ。日本に孔雀はいねえ。コンセプトが浅はかだ。開発者諸氏にはせめて「国家の品格」を読んでもらいたいなあ。

  1. 2009/08/01(土) 22:00:43|
  2. ink
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