inkblot

HON


 りの電車の中だった。向かいの席の若い女性が本を読んでいる。

 文教堂のカバーがかかった、単行本である。厚さはそれほどはなく、まあ単行本としてはそこそこというところだろうか。ハードカバーじゃないけれども、『折れた竜骨』の方が厚いか。

 若い人が参考書ではない単行本を読んでいるというのが少々珍しく感じられたので、見るともなく見ていた。眼の動きを見ていると、あまり読むスピードが速い方ではないようだったが、ページを繰るスピードは意外と速い。

 小説じゃなくて、何かもっと読みやすいものなのだろうか? 時々ちらっと本文が見える。・・・余白が随分あるな。3センチはありそうだ。行間からして、詩じゃなさそうなんだが・・・ん? もしかして。。。

 私はここで彼女が何を読んでいるか分かった。しばらくして電車は終点に着いた。向かいの女性はもう残すところ数ページとなった本に栞をはさんで閉じた。





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  1. 2010/12/19(日) 14:51:40|
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今日の謎

「机につっぷして何してるんだ。人生に絶望したか。しかし、まだ早いみたいだぜ。次の授業が何だったか、よく思い出せ。数Cだ。第3学習室で、楕円がお前を待っている……ついでに来年で定年の田中も」

 たしかに、棺おけに両足突っ込んでいるような田中の授業も胃が痛いが……

「……腹が痛い」

「とうとう、数Ⅲに胃をやられたか。しかしまだ吐血するのは早いぞ。何故なら今度の試験は……」

 ……たしか、こいつは漱石が好きだったな。

「違う。胃じゃない。腸だ、痛いのは」

「なんだ、食中毒か。この時期はヤバいぞ、何といっても……」

 ビブリオ・バルニフィカスの名を出したら、殺す。言っておくが、俺の肝臓は至って健康だ。

「そんな訳はない。朝食はいつも通りにパンだし、昨日の夕食はハンバーグだった……」

 それに生憎、食中毒ごときで苦しむようなヤワな消化器官は持ち合わせていない。まあ、ヤワではない代わりに、かなり繊細な造りであることは否定できない。

「ふん。なら、原因は分かりきってるだろう」

「何だよ?」

 聞こうじゃないか。


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  1. 2009/08/10(月) 00:46:27|
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