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いと気高き輝きの星よ


 もう時間が経ってしまったし、自分でも何を書いているのかよくわかってないのだが、載せておく。






 聴こえる。高速道路を行きかう馬車の音だ。生きとし生けるものが発する熱っぽい音がする。そのやかましい音で、心地よい微睡みから醒めてしまった。さっきまでおれは、ゆるやかにほどけて世界(サカ)のすみずみにまで広がっていたのだ。だが、目覚めてしまった。おれは世界から切り離され、ひとつところに凝り固まり、ぎこちなくかすかに身じろぎしている。おれは誰だ。ついさっきまで、ほんのついさっきまでおれは世界そのものだったのだ。でももう違う。この世界から切り離されて、おれは独りぼっちだ。おれは誰だ。もう分からなくなってしまった。おれは何故ここにいる。誰かがおれを呼んでいたような気がする。誰かは分からない。ここは何処だ。冥(くら)い。寒い。ここは土の下の穴ぐらの中だ、おれのからだは何処だ。脆く崩れかけたこの塵芥のようなものが、おれの肉か。この溶岩と分かちがたく押し固められたものがおれの骨か。とっくに朽ち果てた頭(かしら)の毛が太った。この宙吊りの状態がおそろしい。今のおれは塵の山ではないか。無情な風の前にひと時かろうじてかたちを保っているだけだ。しかしそれがおそろしい。輪郭も曖昧なひと時のかたちであったとしても、こうしてまたかたちを取ってしまった後では再び散り散りになってしまうのが途方もなく怖い。塵でもよい。ゆっくりと、少しずつ、おれの断片を寄せ集めていく、腕らしき所が反応してわずかに動く。脚らしき断片も形を整え始めた。徐々に意識も最前よりもはっきりとしてくる。それにしても寒い。ああ、寒い。ここは最早おれに安らかな眠りを、死のまどろみを与えてはくれない。出よう。

 土をおしわけ、おしわけ、墓穴を開いていく。鋭い氷のような空気が顔を刺す。ごつごつとした石があたりにごろごろと転がっている。そうだ。ここは大いなる火を秘めた山の麓だ。この溶岩はもうおれではないのだな。もうおれを受け入れてはくれない。硬く冷たく拒絶している。ようやく開いた墓穴から、ずるりずるりと体を引きずり出す。目玉はないからよく見えない。たよりは触覚だけだ。何かあたたかいものに触れた。その中に入り込む。目が明いた。あたりはまだ冥(くら)い。夜なのだ。誰もいない。街は死んだように静まり返っている。空気に何かなつかしいものが混じっている。それが胸を刺す。 

 ふらふらと立ち上がり、歩き出す。誰かに会いたかった。路地裏をさまよい歩く。なつかしい。でもどこかよそよそしい。おれが死したるものだから、誰も受け入れてはくれないのか。少しずつ、記憶がよみがえってくる。おれは、そうだ。おれは音楽家(カウボーイ)だった。この街で生まれ育ったカウボーイだ。カウボーイになるために故郷を捨てた。死んでようやく帰ってこられた。ずっと帰りたかった故郷(ふるさと)に。路地から路地へとうつろっても、街に人気はない。死んでいる。街も。おれは独りだ。

 メインストリートの小さなレコードショップの前で足が止まった。薄氷に包まれているようなぼんやりとしたショーウィンドウの奥に、ポスターが浮かび上がって見えた。覗き込んで目を凝らす。おれの楽団(バンド)だ。冷たいものが足元から這い上がってくる。そこにはよく知っている三人が、未来の日付とともに写っていた。おれのバンドの仲間だ。おれ以外の。おれのいない未来では、おれ以外の三人の楽団が続いていて、きっとおれのことなんか思い出してはくれないのだ。目から泥のような涙があふれ出す。地面に落ちたそれは世界を溶かす。淋しい。その感情以外、世界すべてが溶けてゆく。世界は漆黒、ぬばたまの闇だ。寒い。おれと一緒に虚無という温い海に沈んでゆこうではないか。



 遠くの空がなにかおかしくなっていくのが見えた。朝はまだ大地の半分くらいにしか訪れてはいなかった。向かう先の空はほんのり桃色に染まりはじめていたが、その色がある一点からどこかへ落ち込んでしまったように褪せて、なんだかかたちも少しずつゆっくりと崩れていく。

 そこから世界が壊れていた。世界が粘度の高い闇に落ち込んでいく。懐かしい、と、御者台からそれを見て取りながらモイトリは思った。もったりしているのに物凄く暗くて寒くてさみしい闇だ。懐かしい。俺はこの感じをよく知っている。怖れはない。ただひたすら愛おしかった。

 ホロの中からそっとモイトリを呼ぶ声がした。振り返ると、ツムジとタテユクが顔を出していた。ツムジは暖かい外套とたっぷりと引き寄せているのに、心なしか蒼い顔をしている。タテユクはいつもと変わらず穏やかな顔だったが、双眸の奥にどこか張りつめた光があった。

 タテユクがホロをまくって中をモイトリに見せる。ホロの中では一本のギターが激しくひとりでに鳴動していた。ペールブルーのフェンダー、ストラトキャスター。マスタービルト。ダメージ加工を施されたボディが、六弦の振動を受けて震えている。デミアンのギターだ。

 モイトリは二人に空の異常を伝えた。三人は素早く目を交わす。モイトリがふっと息を吐いた。息は白い雲になって空へ昇っていく。

「急ごう」

 六年前。六年前のあの寒い日だ。デミアンが死んだのは。ある街の宿の一室で。突然だった。その時、誰もそばにはいなかった。いつも孤独な闘いをしていた。でも、同じ楽団の仲間だ。一緒に闘いたかった。けれども彼は死ぬ時も独りだった。

 彼の故郷は聖なる山の麓にあった。彼のなきがらは、偉大なる山に抱かれた石の奥津城に眠っている。今日は彼の死んだ日。それは残された三人にとっては碑のように立ち現れる一日だった。彼がいない今も楽団は続いている。三人は終わらせることを選ばなかった。彼のことが、彼の曲が好きだったからだ。彼の作った歌をまだ鳴らしたかった。バンドはデミアンのバンドだった。そして今でもそうだ。

 今日も三人は早くに街を発って、彼に会いに行く途中だった。おかしくなっているのは確かにあの街の方だ。行かなくてはならない。デミアンだ。デミアンが呼んでいる。モイトリはギターを掴んだ。アンプの電源を入れる。ツムジとタテユクもそれぞれ楽器を手に取る。体からあふれ出した歌は馬の脚を速くしていく。



 泣きながらさまよった。また何も見えなくなる。常闇だ。涙の落ちるリズムと震える息が何かになりかけている。体が熱を欲している。まだ寒い。ギターがほしい。

 両手で地べたを探ると、冷たい弦に手が触れた。どろっとした闇の中から引きずり出す。フェンダー、テレキャスター。手に馴染んでいる。ピックガードに挟まっていたピックを引き抜く。

 噛み合わない分散和音(アルペジオ)がパラパラとこぼれる。奇妙な和音(コード)から奇妙なリフが生まれた。エフェクターもかけていないのに、勝手に歪(ひず)んでいる。いくつかの音が響き合い、歌になり始める。歌から陽炎のような残像がゆらゆらと立ち上る。踊っている。踊らされている。


 遠くに何か小さなものが見えた。蒼い鳥だ。あれはおれだ。常闇が視覚を狂わせるので飛んでいるようにも見えようが、あれは地べたに墜ちているのだ。燃えるような体温はもうない。翼は折れている。夢の中でさえ、おれは飛べない。点々と散っている蒼い羽を踏みにじっていく。

 ぶくぶくと沈んでゆく体を浮かび上がっているように見せていた。どんなに歌ってみせてもそれは見せかけに過ぎない。足掻いているうちに頭まで沈んでいた。泡だけが遥か上の水面までのぼっていく。いっそ深い海の底まで行ってしまおう。そしてそこで眠りにつこう。心が擦りむけている。それを誰にもさらけ出せなかった。ここにはもう誰もいないから、そっと心を開いていく。どっと流れ出す血もここでは闇にまぎれてしまう。心地のよい闇だ。随分深いところまで来たな。粉雪のような白いものが静かに降り出した。知らない誰かの体とそれっきりでいよう。この体はなぜかよく馴染む。なんだかよく知っているようでもあったが、頭に靄がかかっていて思い出せない。リフがループしているなか、新たなコードを乗せる。歌がゆっくりと広がっていく。



 世界はまだ神々の領(うしは)く時間の中にいる。人の時間はまだ先だ。街々はどこも静まり返っていた。闇はほんのりと薔薇色の靄に包まれた朝焼けの街を呑み終わり、まだ死に似た穏やかなまどろみの中にある蒼い街々にまで伸びていた。放っておいたら世界をすっぽり呑み込んでしまうだろう。世界はさびしい。世界はむなしい。世界がその内側に抱えているどうしようもないさびしさ、むなしさに呑み込まれていく。自壊するように。なんてさびしいんだろう。だが放ってはおかない。ひとりきりで泣き叫んでいる友を救いに行く。

 モイトリは赤いストラトキャスターの弦を強くはじいた。早くあの闇の中に入りたかった。力技で、音を撚りあわせ、無理やり空間に暗示をかける。彼とわれらのあいだに距離はない。ゼロ距離。恐るべき力でねじ伏せていくが、あともう少しで届かない。モイトリは伸ばした手をすっと引いた。彼とわれらのあいだの距離はもうさしてない。距離は一マイル。空間に完全に暗示がかかる。イメージ通りの暗闇の中に、馬車は転移する。三人の身体にどっと重い負荷がかかった。モイトリの口の中には鉄の味が広がり、ストラトキャスターの弦は白く発光して指を痛めつけていたが、彼は気付いてすらいないようだった。タテユクはやはり表情を変えていなかったが、彼のはじく太い鋼鉄の弦もやはり真っ赤に焼け、彼の指を爛れさせていた。ツムジの鍵盤を叩く指も爪がはがれかけている。だが構わず音を鳴り響かせながら、進んでゆく。その轍はまばゆく力強く輝いていた。

 あたりの闇が一段と深くなった。その中心にくっきりとした人の輪郭がある。それを目にしたモイトリは一瞬だけ声を詰まらせ、ほかの二人は刹那、瞳に暗い色をよぎらせた。よく知っているが、知らない男だった。肉体の持ち主の容貌とデミアンの容貌が入り混じり、新たな容貌が生まれている。だが、たしかにそこに居るのはデミアンだった。その大きな目は黒い闇を涙の代わりに流している。飴色のテレキャスターを抱え、長躯を持て余すように何もない無の空間に座り込んで、虚無の寒さに震えながら果てのない嗚咽を漏らしていた。



眠りを破るざわめきが 止まった心臓に入り込んで
勝手に脈を打つ
夜でもない 朝でもない 薄暗がりで目が覚めてしまった
強張った体が独り 取り残された

骨が緩んでがちがち鳴っている 繋ぎ留める温もりがないから
骨のあいだに積もった時間が 朝の世界から記憶を削り落とした
忘れられた歌は 誰の耳にも届かない
冷たい涙が 血の代わりに 内側を駆け巡って 体を焼く

もう二度と朝と出会えないのなら 太陽など呑み込んでしまえばいい
もう二度と夜を照らさないのなら この月など粉々になってしまえ
受け入れてくれない世界を呑み込んで ひとつになってしまいたい



 ひたひたと世界を浸すその歌に耳を澄ますと、音が体の中に飛び込んでイメージとなって走る。高速の馬車の音。溶岩の混ざった土の中。誰もいない街。レコード店。三人だけのポスター。そのイメージが広がった瞬間、六つのするどい痛みが、三つの胸をするどく刺し貫いた。モイトリの瞳が一瞬、絶望でかき曇る。だがすぐにまたもとのように澄み渡る。彼に向けて声を放つ。

「デミアン」

 男がゆっくりと頭をめぐらせる。はじめてモイトリを見る。

「久しぶり」

 芳しい反応はなかった。しかし光のない眼はじっとモイトリを見ている。

「あれからそれなりに時間が経ったんだ。最近どうしてるか話してもいいかい。俺たちはまだ歌い続けてるよ」

 デミアンの肩がわずかに強張ったのを三人は見逃さなかった。

「なんでかわかるかい? きみの歌を聴いてほしいからさ。きみはすぐ自信をなくしていじけるけど、ホントにいい歌なんだ。きみが見失ってしまうなら俺たちが何度だって言ってやる、きみは最高だ。……言いたいことは山ほどあるよ、何ひとつうまく言えないけど」

 デミアンのギターを持つ手が緩む。

「もしきみと出会わなかったとしても、俺はギターを弾いてただろう。けど、でもなにか違うんだよ。きみの歌がかたちを与えてくれたんだ、もう他のかたちにはなれない」

 モイトリは真っ直ぐに友を見据えた。

「きみのことが大好きだ。きみの歌が大好きだ。いつまでもきみの歌を鳴らしたいんだ。俺たちがきみのつけた名を名乗って歌い続ける理由はただそれだけだよ」

 デミアンのギターが止まった。馬車の御者台からひらりと飛び降りる。ギターを、ベースを、鍵盤を弾く手は少しの空白も許さなかった。音が加速してゆく。歩み寄る。

 モイトリが力強くストロークを弾き出す。その響きが生み出したのは、目を潰すような強烈な白熱する光だった。六弦がしなり、強靭なアルペジオが一音一音編みあわされてゆき、優しく、しかし決然と闇を切り裂いてゆく。モイトリが歌う。声は伸びやかに広がる。音楽の推力が三人の体を運んでいく。三人のカウボーイは、とうとう死せる友を取り囲んだ。

「思い出して。きみの中には暗くて寒くてさみしい闇と、その闇ゆえに強く輝く星がある。ともにバンドを組んできて、俺らの中にもきみと同じ闇がある。そして星のかけらもまた、俺たちの中にある。今、きみの中の星が暗闇に飲まれてしまったというのなら、俺たちの星をきみに返すよ」

 三人は友の胸に光の白刃を叩き込んだ。

「きみは、星(スター)なんだ。そんなさみしい歌、歌わないでくれ」

 デミアンの目からあふれ出すものが、黒いものから透き通ったものに変わっていく。瞳が洗い流され、澄んでくる。デミアンの大きな瞳に、はじめて三人の姿が映り込んだ。

「モイトリ、タテユク、ツムジ……!」

 涙の湛えられた大きな目に、ぐっと力がこもる。

「俺を、忘れないでくれ」

 タテユクが穏やかな顔で答える。

「忘れないとも」

 言葉に不思議な頼もしさがあった。

「もちろん」
「まかせろ」

 ツムジは澄ました顔で、モイトリは笑顔で答える。真剣な目でじっと見ていたデミアンがふっと笑う。

「安心した。これでまたゆっくり眠れる」

 デミアンの体から力が抜けていく。かりそめの体からあくがれ出でて、拡散しながら世界(サカ)そのものへ還っていく。もちろん三人も世界の一部だ。どこかで彼の一部をもう一度抱きとめる。束の間の対話は終わってしまった。

 空の色は雲ひとつない抜けるような蒼だった。風は冷たく、大気は氷のように澄み渡り、 指がポロポロと落ちそうなほど寒い。だが生命の気配が戻っている。

 モイトリは緊張の糸が切れたように、ゆっくりと膝をついた。溶岩の混じった土のごつごつした感触が膝に伝わる。そのままボロボロと泣き始めた。涙はなかなか止まらなかった。高くそびえる聖なる山も、その蒼さの中にさみしさを溶け込ませながら、小さな古びた街をその懐に抱いていた。





  1. 2017/12/24(日) 12:39:05|
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星が目を射て耳を射る


ある日、森で仕留めた勇壮な雄鹿(おじし)が星を吐き出した。
生きていた時の瞳の輝きをそっくりそのまま移したような。
眩い毛並みの白を、そっくりそのまま映したような。
舌から転がり出たそれを握りしめると、じんじんと熱い。

ニコデモは雄鹿の舌(サヨ)、肝(キモ)、心臓(マル)、膵臓(タチ)を取り。
雄鹿の舌、肝、心臓、膵臓を取り、十二の串を捧げて祈った。
神は贄を嘉納し給い。
清い風を北へと吹かせた。

ニコデモは残りを持ち帰り。
肉は干し、毛皮は鞣し、角と骨は削って杖にした。
そしてそれらを持ち。
星を袋でぶら下げて、北へと向かって旅立った。
彼はもう、置いて行かれないものを何も持っていなかったから。

森を抜け。
静寂(しじま)に白い灰の降る。
死の山を越えた。
灰は雪のように、しかし雪よりも柔らかく彼の足跡を消す。
この灰のように、死者も眠りにつくのだろう。

尾根を歩き、澤を伝った。
夜は火を熾して毛皮を纏い、休んだ。

数多の山々を超え。
或る山の頂に至ったのは夜に入る頃だった。
小さな焚き火を熾し。
最後の鹿肉と、澤の魚を火に掛ける。
湯が沸いて、草で作った茶になった。
少しずつそれをかじり出す。

慎ましい食事が半ば終わった時。
強い夜風が火を掻き消した。
胸元の星が強く輝き出す。

鹿の星は、強く強く輝いて。
袋を焼き切り、飛び去った。
そして空から星が降り。
そして空から星が降り。
星の雨が彼の心を畏れで満たし。
星が瞳(め)を射て、耳を射る。
星々は歌いながら、雨と降り。
ニコデモは手で目を覆い、絶叫した。
その声もまた歌になる。

彼の瞳には星が宿り。
彼の眼は盲いた。
彼の舌には星が焼き付き。
張り裂けるような声で歌いながら彷徨った。

斯くして彼はカウボーイとなった。



  1. 2016/11/29(火) 15:57:56|
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七色はいらない


 ミュージシャンの名前について考えていて、こういうことじゃないかと思ったので書いてみた。
いい感じの名前がつけられたので満足である。
ポイントはドラマーがかっこいいところである。



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  1. 2015/03/26(木) 01:20:52|
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湖の伝説


 去年、諏訪へ旅をした時に耳にした伝説を下敷きにして書いた。細部は全然覚えていないのだが、諏訪湖と信玄公の伝説である。書いているうちによく分からなくなった。




 凍てつく冬に、鳥は死んだ。時は戦(いくさ)の世、山がちな小国の主――軍将(いくさのきみ)は、若く美しい武者だった。その名は緋星将(あかぼしのきみ)という。あまり無骨な風貌でもないが、しっかりした骨格の持ち主で、武芸の道に生真面目に打ち込む一方で、歌や書物を愛した。書の腕はあまり目を引くようなものではなかったが、琵琶と語り物は名うての弾き手からじっくりと手ほどきを受け、目明きの者とは思えぬような素晴らしいものになっていた。元来、姉妹のほかに男兄弟はなく、兄弟同士の食らい合うような争いというのはせずに済んではいたが、それでも乱世の小国の主家といえば生きているだけで敵は多いものである。ゆっくり育つひまもなかったが、文武どちらの道も決して手を抜かなかった。どちらも生きるためには必要だったからだ。武事は肉体を守り、文事は心を守った。

 用心深い父も病からは逃れられず、側近だけに見守られた長患いの後に息絶えると、彼が一国の主となった。心を許した数少ない側近を手足として、彼は押し寄せる軍勢を打ち払い、他国へと躍り出た。またたく間に、生産力もさしてない、山ばかりの小さな小さな国が強国へとのし上がる。彼は休まなかった。慎重に、だが勢いを殺すことなく、地図を塗り替えていく。明らかに生き急いでいた。正室との間に姫君がひとりあるばかりで、世継ぎに恵まれていなかったことも気にしていた。

 ある時、緋星公は苦戦を強いられていた。長期にわたる睨み合いののち、休戦が結ばれて撤兵に取りかかったのだが、その最中、濃く白い霧の立ち籠めるなかで別の敵軍に出くわしてしまったのだ。こちらは既にかなり消耗している。だが相手は余裕があった。まずい。休戦の申し入れは突っぱねられた。両軍は戦いに入ったが、公の郡は粘り強さをみせて辛抱強く退却の道を探った。それはあった。時間はかかったが、最良の時期を見計らってまで耐えしのび、公は自らの軍を撤退させた。

 疲弊した軍勢を率いてゆく自国への道は険しかった。山道を縫うように進んでいった。消耗は思っていたより激しい。公は発病した。誰にも知られてはならない。敵にも味方にも。側近の者たちは影武者を立て、たった三人の重臣だけをお供に、軍勢とは別行動を取らせた。

 公につき従った重臣は、水眼十郎(すいがじゅうろう)、松下兵部(まつしたひょうぶ)、肥月居士(ひげつこじ)の三人である。いずれもみな若い。十郎は公のまたいとこであり、兵部は公の乳母子(めのとご)、肥月はある時ふらっとやって来て、居ついた幻術使いである。三人の家臣たちは主を奉じていくつもの山を越えた。ひどい熱である。主君は熱い体を冷たい汗に濡らして、瘧(おこり)にかかったように震えている。意識は澄み渡ったり混沌としたりした。気の確かな時には今後の動きについて主従四人で話し合った。うなされている時は、北の方や姫君の名をうわ言で呼んだ。不断であれば大事には至らない病だったはずだが、何分長い戦で身も心も憔悴しきっていた。早く国へ帰らねば。空気が重たくなると、兵部が冗談を飛ばした。肥月が十郎にまぼろしを見せてからかう。三人は励まし合いながら、かすかな獣道を急いだ。

 唐突に道が開ける。湖だった。静かな水面(みなも)が滑らかに光を跳ね返していた。水底(みなそこ)はきっとおそろしく深いのだろう、透き通った水は奥へ行くにつれて次第に湖底を隠していく。

「止めてくれ。ここで休もう」

 馬上から芯のつよい声がした。家来たちはすぐさま馬をとめ、主君が愛馬から降りるのを手助けする。殿は湖のほとりに降り立ち、大きな目を細めて湖を眺めた。

「美しい湖だな。かたちが菱形をしているところがいい」

 三人は公の言っていることがいまいちよく分からなかったが、主君が妙なことを言うのには慣れていたので特に気にしなかった。殿の調子はいいらしかった。持ち直したようだ。

「今日はなんだか調子がいい…… 琵琶はあるか」

「殿、こちらに」

 床几(しょうぎ)に腰を下ろし、琵琶を奏し始める。淼(びょう)、淼(びょう)、淼(びょう)。湎(べん)、沔(べん)、湎(べん)。琵琶を弾く公の眼は、晴眼者にもかかわらず何も見えていないように、薄青く透き通って見えるのだった。公が語り出す。その声は低く、どこかもったりしたところが親しみを感じさせる。その響きの中にいつもある一途さが好きだった。都を追われ、西へ流離してゆく権門の物語に、知らず知らずのうちにすっかり入り込んでしまう。戦いに敗れ、駆け逃れた先の大海の水は骨の髄に刺し入るように冷たかった。

 鳴りやんでやっと我に返る。公はにやにやしてこちらを見ていた。ここしばらくのあいだに随分と痩せた。だが眼の輝きは少しも衰えていない。

「顔が暗いぞ、おまえたち。日の射さない道を長く歩きすぎたのだ。今日は少し休もう。おれのことは心配するな。不思議と大分よくなった」

 家来たちは久しぶりに嬉しい気持ちになって、膝をついた。

「おい十郎、笛を持て。肥月は鼓を持っているか。遊ぼうではないか」

 重臣たちも公の言葉に、それぞれいたずらを始めるような顔になって楽器を取り出す。好きなのだ。真面目な者たちだったから、誰一人として刀を捨てて楽器を傍らに穏やかに生きてゆけたら、などという夢想すらする者はなかったが、可能ならそうしたかっただろう。ただでさえ、心配性の老臣たちからそれとなくたしなめられることがあったのだ。だがその日ばかりは、気の済むまで楽器を弾いて遊び、日の沈むころに食事を摂って寝た。

 ほっとできるようなことがあったのは、もうどのくらいぶりか分からないほど久方ぶりのことであった。見張りの者も、気付けば寝入っていた。つい気がゆるんでしまったのだ。

 ふっと目が覚めて、はじめて自分が眠っていたことを知り、十郎は恥じた。そしてすぐに緋星の君の姿を捜す。いない。血の気が引いていく。他の者を蹴り起こして、天幕の外へ飛び出す。肥月の幻術で湖一帯を隠していたから、敵の間者に見つかるおそれは低かったが、それだけで安心できるものではない。嫌な寒気に総毛立つ。はたして、公はいた。ほの明るい夜だった。月が投げかけるしらじらとした光を水が満々と湛えている。公はそこに身を浸していた。家来たちが駆け寄って、うつむけに倒れている主君を抱き起こす。眠っているように穏やかな表情だった。琵琶を抱いている。水は飲んでいない。水に倒れ込む前に、ひとりでに心の臓が動きをとめたようだった。もう、この世の人ではなかった。公の心はこの湖のほとりから、水の向こうへと旅立ってしまっていた。

 三人は気が遠くなって、自分たちもどこか体から離れたようなところから主の名を呼んだ。そこへ知らない間に嗚咽が混じっていく。次第に声も嗄れていく。声が出なくなると、それぞれ笛や鼓を手に取った。足りない音楽が樹々や水に跳ね返って響く。空の端から夜が白んでいく。

 日の光がすべてを乱暴に照らし出す頃に、家来たちはようやく楽器を投げ出した。目は腫れ上がり、どす黒い隈に縁取られた瞳は濁っていた。三人はわずかに言葉を交わし、主君をこの湖に葬ることに決めた。主をどことも知れぬ湖に葬るなど、普通であれば正気の沙汰ではないが、公の魂はすでに湖の底に沈んでいるような気がした。ならばお体もひとつところにお送りせねばなるまい。

 日のあるうちに準備を整え、日没を待って松明(たいまつ)をあかあかと灯した。黒雲が空をべったりと覆い、星ひとつない闇夜となった。ほとりにそっと舟を浮かべ、湖の中心へと漕ぎ出す。小さな小さな舟に自分たちの他に載せているのは、具足をつけ、太刀を佩き、琵琶を胸に抱いた主の亡骸をおさめた石の棺である。この山奥でどのようにしてそんなものを調達したのかも、どうしてそんなに重いものをこんなに軽い舟に載せられるのかもよく分からない。(ただ、この湖から一番近い集落には、鎚や鑿と取り換えたという曰くのある立派な太刀を伝える家が今もある。)

 たいまつの爆ぜる音がやけに大きく響いた。誰も何も言わぬ。たいまつの赤い光が、水面に血のような跡を引いた。舟が湖の真ん中まで来る。水面に吸いついたようにぴたりと止まる。三人の重臣たちは石の棺を静かに湖へ降ろした。棺はゆっくりと昏い水に沈んでいく。棺がすっかり水に沈んでしまうと、水面にへあぶくが浮かび上がった。ぷつぷつと、途切れ途切れに浮かんでは消え、浮かんでは消えするあぶくがまるで沈みゆく主の呼吸するに思われて、十郎が水面にへ身を乗り出した。他がそれを組み伏せる。あぶくは長いこと水底からのぼってきたが、ようやっと絶えた。それを見守って舟は引き返す。三人の身も、冷たい水に浸されて痺れているような気がした。


 五回の冬が過ぎた。見覚えのある細い山道を、湖へ向かってゆく三人の姿があった。

 緋星将亡き後、話し合いを重ね、三人のうち公と血縁の十郎を後継者に立て、十郎は公の遺児である幼い夕星姫(ゆうずつひめ)を正室として主家に入った。水眼十郎は公よりまた少し若く、無邪気なところのある若者だったが、五年が経って公にどこか似て来た。近頃ではまわりの者たちも時折はっとすることがある。三人ともそれぞれによくよく話し合って、それぞれに重たいものを背負い込むことに決めた。表に立つ者と影で支える者とがあるが、どちらも背負うものは同じであった。今も同じ道を歩いている。頭上には太白星が輝いていた。

 日は落ちて夜である。五年前と同じように、小さな舟でそっと湖に漕ぎ出す。あたりはしんと静まりかえっている。五年の間、目まぐるしく色々なことがあった。だが三人の心はいつしか五年前のあの日にかえっていった。風はない。頼りない櫂が水面を掻いて進む。湖の真ん中に来て、やはり舟がぴたりと止まる。

 三人はそれぞれ楽器を取り出した。十郎は五年のうちに琵琶も大分弾けるようになっていたが、今日手にしているのはかつての笛である。笛の鋭い音が先陣を切って、楽がはじまっていく。何かがどうしようもなく欠けている。欠け落ちているものを埋めないまま、彼らはそれを捧げた。何も言わなかった。言いたいこと、伝えたいことはすべて音の中に込めた。それ以外の方法ではやみくもにあふれてしまって伝えられそうにもなかったのだ。楽の音は水に溶け、樹々に沁み込んでゆく。三人はもう余計なことは何も考えてはいなかった。体も心も楽器そのものと化す。三昧境とはこのようなものか。どこにもない琵琶の音を読んでそれぞれの音が編まれる。時々、無音になる。本来は琵琶の独奏になる部分である。今、またほかの楽器が止む。鳴り響く音はない。三人は楽器を構えたまま、静寂(しじま)を駆ける琵琶の音を夢想した。


梵。


 伏せていた目を上げる。琵琶だ。間違いない。今、たしかに水底から響いた。


菩梵。梵露論。梵梵。


 十郎がわっと子どものように泣き出した。今までこらえていたものが解き放たれたかのようだった。十郎が泣くので、兵部と肥月は泣けなかった。代わりにそれらを支えるように伴奏を再開する。十郎も思いきり泣くと、拳で顔を拭って笛をとった。全ての音が揃う。きっとこれが最後だと、誰もが感じていた。思いはあふれすぎて、すべてをそこに込められたのかどうかももう分からなかった。何かを考える余裕はない。真っ白なところで時の感覚もないまま、いつしか最後の琵琶の一音が湖面を打った。少しだけ、泣いた。



 ぼぼんぼんと琵琶の音があたりに反響していい音を立てる。弾いているのは、パーカーにジーンズの若者である。

「これがこの湖の伝説よ。今語ったような訳で、この湖の底には英雄が沈んでいるのだ。ところでおれはやっぱり楽器では琵琶が一等好きだなァ。カッコいいよなァ」

 楽しそうに撥をはじく。正体不明である。

「あんたは誰なんだ」

 若者は大きな目を上げて、声の主を見た。笑っている。

「本当はもう、おれがこうしている意味をしっているんだろう? 何度も何度も繰り返し繰り返し出てきては、おれはおのれを語らずにはおれないのだ」

「ああ。そうか。そうなのか」

 声は長く息を吐いた。

「なあ、友よ。気に病まないでくれ。そしておれを忘れないでくれ。おれがいいたいのは結局のところ、それだけなのだ。おれはおまえなのだからな」




  1. 2014/12/24(水) 13:02:09|
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火の鳥を殺す その6

 すぐには本の中から戻って来れず、疲れた目をしばたいているとチェスターがパンとスープを持ってやって来る。何か言いたそうだったが、結局黙ってそれを差し出す。ハルシオンは本を置いてそれを受け取る。

「ありがとう」

 チェスターは視線を逸らしながら曖昧に頷く。二人は静かに夕食を取った。スープは溶け残りがあったが、他はまあまあだ。焚き火の爆ぜる音が主役のようである。チェスターは今までになく穏やかに見えた。何か覚悟をしたようだった。そして待っている。

 食事が終わると、どちらからともなく後片付けを始めた。星影はない。闇夜である。焚き火の数を増やして照明にし、ギターを手に取る。チェスターはだらしなく丸めた背を伸ばした。絆創膏だらけの手を、ゆっくりと握って開く。

「死にぞこなったオレの時間なんか凍りついてしまえばいい。そうすれば生きていないのと同じだから。……でもそれは無理なんだろう。オレは歌うことにするよ。大事なものを手放すことになるんだろう。でもオレは望んで歌を選ぶことにするよ」

 サンバーストのテレキャスにピックが振り下ろされる。シンセのストリングスが鳴く。レスポールスペシャルのリフが転がる。リズムマシーンが小さな体で精一杯どっしりした音をひねり出す。ベースラインは鉄の塊のようだ。チェスターが歌い出す。抑えてはいるが、序盤で既に声が張り詰めている。全ての音が一体になって、次第に重力から解放されていく。サビで声が解き放たれた。声は真っ直ぐに飛び、突き抜けていく。

 何もない黒い空から、何か蒼いものが舞い降りた。小鳥に見えたが、しかしもう一度目をやった時には小鳥の姿はなく、代わりに一人の男が立っていた。彼の親友だ。

 チェスターとマックス・デミアンは向かい合った。デミアンは同じサンバーストのテレキャスを持っている。元々、彼がチェスターに譲ったギターだった。デミアンがはにかんで口を開く。

「やあ、どうも」

 チェスターは鼻をこすった。音楽は止まっていない。

「久しぶり……」

 それを聴いて、デミアンは苦笑する。

「ずっといたよ。……しかしまたこうして話ができるとは思わなかったな。またこうして話をすることができない日が来るとも思ってなかったけど。きみに何かものすごく言いたいことがあったような気がしてたんだけど、面と向かっているとなんだか敢えて言うことはあまりない気がするね。ただ忘れないでね。ぼくはずっといるからな」

 チェスターも笑った。

「忘れられるかよ。分かってる。……ごめんな」

 チェスターは左手に握った拳銃をデミアンに向けた。気付けばデミアンも右手の銃口をチェスターに向けている。

「きみは何も悪くない。ぼくがきみでもそうしたさ。ぼくこそ迷惑をかけて悪かった。でもきみが親友でよかった」

 笑顔だった。

「オレもだ。ありがとう。――ありがとう」

 引き鉄が引かれる。乾いた音が響く。リボルバーに込められた一発きりの銀の弾丸が、過たずにデミアンの体を貫き、チェスターの体を貫いた。デミアンの体が意志を失って地に斃れる。チェスターの体も同じように倒れた。ハルシオンが駆け寄る。

「おい!」

 上体を抱えると、チェスターは目を開けた。

「まだ死んじゃいないよ…… オレはまだ死ねないらしいからな……」

 胸に空いた赤黒い穴から血が流れ出している。口腔からも血があふれ出す。チェスターは焦点の定まらない目で、寂しげな微笑を浮かべた。

「歌にせずにはいられないくらい大きな出来事なのに、それをそのまま歌うことはどうしてもできなかった…… だから殺すしかなかった。オレはあいつを殺してしまった」

 涙が頬を濡らす。口からあふれた血のあぶくが顎を伝っていく。だが音楽は止まっていない。

「あいつを二度も死なせてしまった…… だけど青い鳥は……死んで……火の鳥になる……」

 ハルシオンはチェスターの視線の先を見た。デミアンの体が炎へと変わっていた。刹那ごとに色を変えながら、炎は翼を広げ、飛び立つ。

「火の鳥は死んでも生まれ変わるんだ…… もう滅びることはない……」

 美しい鳥はどんどん空の高みへ飛んで行き、遠くで星のようになった。それとともに音楽も遠ざかっていく。しかしどちらもいつまで経っても消えなかった。

「分かった。もうあんまりしゃべるな」

 チェスターは火の鳥から目を離さずに頷く。

「色々とありがとう…… 厄介事に巻き込んで悪かった」
「なに、お互いさまだ」
「新譜…… 出来たら送らせてくれよ……」

 ハルシオンはニヤッと笑った。

「楽しみにしてるぜ」

 チェスターも微かに笑って目を閉じる。何やら騒がしい。すぐ近くで蹄の音がした。二フィートもない所まで馬がやって来て、二人の男が駆け寄って来る。

「チェスター!」

 チェスターは心なしかきまりの悪そうな不機嫌顔になる。

「なんだ…… お前らか……」

 メンバーたちはチェスターを見て青くなった後、その言葉で頭に血を上らせたが、なんとか自制する。

「お前はそうやっていつも勝手なことばかりして、おれたちから距離を取ろうとする! おれたちはお前に必要以上に干渉したい訳じゃない。おれたちはお前の歌が好きだからバンドを組んでるんだぜ? ナメるんじゃねえ。おれたちはお前がどんなにロクでなしでも、歌がある限りついて行くし、歌のためだったら何でもする覚悟はできてる。……ここ数日、目の前にいるのに何もできずに指くわえて待ってるのは惨めだったぜ」

 チェスターは目を伏せた。

「悪いとは思ってる…… 感謝してない訳じゃない……」

 メンバーの一人が顔をくしゃくしゃにしてチェスターの頭を指ではじいた。チェスターはちょっとむっとした顔になるが、放っておいて三人は傷口を縛りあげて応急処置を施し、馬に乗せる。

「うちのバカが世話になったな」
 メンバーがハルシオンに礼を言った。

「礼もしないで悪いが、おれたちはこれから医者を叩き起こしに行かなきゃならないんでな」
「気にしないでくれ。しかしあの様子だと、治ったらおたくも忙しくなるぜ」

 ハルシオンがにやにやして言うと、メンバーは愉快そうに声を上げて笑った。

「だろうな。だが望むところさ。ありがとよ」

 楽団は去って行った。

 焚き火は燃え尽きて、最初の焚き火だけになっていた。急に静寂に返った荒野で、ハルシオンは空を見上げる。相変わらず星はないが、火の鳥は変わらずにそこにあった。





 
  1. 2013/12/24(火) 20:00:31|
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